最近の米長期金利の低下について

2021/08/06

▣ 米長期金利は一時1.1%台前半まで低下

米長期金利(ここでは10年債利回り)は3月末には1.7%台まで上昇しましたが、8月4日には一時1.12%程度まで低下、足元でも1.2%前後と、2月の水準まで戻しています。

低下の要因は諸説ありますが、

  • 急回復した米景気が4-6月期をピークに鈍化するとの見方が強まっていること(図表1)
  • インフレへの過度な警戒が後退していること
  • 米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長らが、金融政策の正常化に慎重な姿勢を示していること
  • 大規模な経済対策による国債の増発が徐々に和らいでいく見込みであること
  • 前回のテーパリング(米国債などを買い入れる量的緩和の段階的縮小)時には、開始前には米長期金利は上昇したものの、開始後には低下に転じたことから、テーパリング開始でも米長期金利の上昇は限定的との見方があること

などが挙げられます。

また、米金利上昇を見込み、米国債売り(価格下落、利回り上昇)に傾いていた投資家の巻き戻しが強まり、米長期金利を一段と押し下げたとみられます。市場の利上げ観測もやや後退しています(図表2)。

▣ 8月に入り、FRB高官から金融政策の正常化に前向きな発言が相次ぐ

もっとも、4日に発表された7月の米サプライマネジメント協会(ISM)非製造業景況指数は64.1と、市場予測を上回り、過去最高を更新しました。米経済指標にやや振れはありますが、国際通貨基金(IMF)が米国の成長見通しを引き上げるなど、米経済は依然として堅調さを維持しています。

他方、FRBのウォラー理事は8月2日、9月までに米国債などを買い入れる量的緩和策の縮小(テーパリング)を発表する準備が整う可能性があるとの見方を示しました。4日にはFRBのクラリダ副議長が、年内にテーパリングを発表することを支持する可能性があり、また利上げに必要な条件は2022年末までに満たされると確信していると述べ、2023年の利上げ開始を支持するなど、金融緩和の正常化に前向きな発言が目立ってきています。

米金融市場の金融政策の早期正常化への警戒はやや後退していますが、米労働市場の一段の回復が確認されると、年内のテーパリングの開始決定や、テーパリング終了後の利上げ開始の蓋然性が高まることも想定されます。

▣ テーパリングは織り込み済みも、利上げ開始が意識されると長期金利が押し上げられる可能性も

米長期金利は、前回のテーパリング開始前に必要以上に上昇した反省もあり、テーパリング開始へのの反応は前回ほどは大きくない可能性があります(図表3)。ただ、利上げについては、短い期間の金利を中心に水準が引き上げられ、長期金利も押し上げられることになるため、影響は大きいとみられます。

また前回は、テーパリング終了(2014年10月)から利上げ開始(2015年12月)まで1年以上間隔が空きましたが、今回はさほど間隔が空かない可能性があります(例えば2022年にテーパリング開始・終了、2023年の早々に利上げ開始)。テーパリングが開始されると、利上げが意識されることも想定されます。

8月26-28日に開かれるジャクソンホール会議で、パウエルFRB議長が金融政策の正常化についてより具体的に発言する可能性もあり、一段の米長期金利の低下は限定的になりそうです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/env/

 

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