テーパリングと金融市場

2021/06/04 <>

▣ コアPCEデフレーターも3%超

米国では、2008年9月以来、約12年半ぶりの大幅な伸びを記録した4月の消費者物価指数(CPI)に続き、米商務省が5月28日に発表した4月の個人所得・消費統計では、米連邦準備制度理事会(FRB)が物価の目安として注目する食品・エネルギーを除くコア個人消費支出(PCE)価格指数(コアPCEデフレーター)は、前年比3.1%上昇し、1992年7月以来の大幅な伸びを記録、総合価格指数も前年比3.6%上昇しました(図表1)。

米国では、過度なインフレ懸念はやや後退しており、PCEデフレーター上昇への市場の反応は織り込み済みとして限定的でしたが、今後5年間の期待インフレ率は2.5%を上回ったままで、インフレの加速に加え、FRBによるテーパリング(米国債などを買い入れる量的緩和の段階的縮小)や利上げが前倒しされるとの警戒もくすぶります(図表2)。

▣ 適度なインフレの下でのテーパリングと金融市場

テーパリングが開始された場合には、米債券市場についてはFRBによる買いが弱まり、将来的な利上げを織り込むので直接影響があります。

米株式市場については、長期金利の上昇は重しになる可能性がありますが、ペースは鈍るものの、  FRBのバランスシートの拡大(米国債等の買入れ)は続き、緩和的な金融政策が継続する中、経済成長を伴う適度なインフレは株価の押し上げ要因となるため、過度なインフレが持続的に発生しない限り、株価を大きく押し下げることはないとみられます。

リートについては、インフレに強い資産であるため、リーマンショック時のような大きなクラッシュがない限り、堅調な地合いが続くことが見込まれます。

とはいえ、緩和マネーの供給鈍化は、リスク資産の重しになる可能性があります。

▣ 前回のテーパリング時は

前回は2014年1月からテーパリングが始まり、10月に終了(買入れ終了、保有残高はしばらく維持)しました。テーパリング開始前後の金融市場の動きは以下のとおりです。

  • 米国株、国内株は、テーパリング前、開始後ともに、景気が回復する中、総じて堅調な動きが継続(図表3、4)
  • 米リート、Jリートは、テーパリング前は不安定な動きになったものの、テーパリング開始後は堅調な動きに(図表5、6)
  • 米長期金利は、テーパリング前は上昇も、開始後は低下(図表7)
  • ドル円は、テーパリング前は上昇、開始後はもみ合い後、上昇(図表8)

▣ 短期的なインフレの上振れは織り込んだ可能性

米国のインフレ率の上振れは、現金給付を含む大規模な経済対策に加え、コロナ禍で控えられていた消費の需要が、経済再開に伴い急回復していること(ペントアップ需要、繰越需要)、また、人手不足やサプライチェーンの混乱などで、供給が需要に追いついていないことなどが主因とみられます。

今後、ペントアップ需要が一巡し、生産活動が正常化してくると、物価の押上げも和らぐとみられます。コアPCEデフレーターはこれまで安定して推移してきたことを踏まえると、FRBが主張するようにインフレ率の上振れは一時的で、早晩以前の水準に戻ることも想定されます。

米金融市場が織り込む期待インフレ率は、今後1年間については3%を超えるものの、期間が長くなるほど低下しています(図表9)。1年後の1年間の期待インフレ率は概算ですが2.3%程度の水準に下がります。金融市場は短期のインフレ率の上振れは警戒しているものの、インフレ率の高止まりが長期化することは想定していない模様です。

もっとも、インフレ率の上振れが長引いた場合には、予防的な金融引き締めをしない方針とみられるFRBも、早めにテーパリングや利上げに動く可能性が出てきます。

金融市場は、米国の短期的なインフレ率の上振れ、来年からのテーパリングの開始をある程度織り込んでいるとみられます。とはいえ、テーパリング開始時期がはっきりするまでは、神経質な動きが続く可能性があります。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/env/

 

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