テーパリング開始のハードル

2021/05/26 <>

▣ 初めてテーパリングの議論開始に言及

米連邦準備制度理事会(FRB)が5月19日に公表した米連邦公開市場委員会(FOMC、4月開催)の議事要旨で、資産購入ペース修正の議論開始について言及が初めてあったことを受け、量的緩和の縮小(テーパリング)が改めて意識されました。

議事要旨では、何人かの参加者が「経済が委員会の目標に向けて急速な進展を続ければ、今後の会合のいずれかで資産買入れペースの調整に関する計画について議論を始めるのが適切になるかもしれない」と、提案したとされています。

これまでFRBは、テーパリングの議論は時期尚早としていましたが、クラリダFRB副議長が25日、テーパリングに関して「今後数回の会合で議論を始める時があるだろう」と述べるなど、前回テーパリング開始を決定した2013年に似た状況になってきています。

大規模な経済対策やコロナワクチン接種の進展を受け、経済の正常化が加速するとの見方が強まるとともに、消費者物価指数や期待インフレ率が上振れる中、6月のFOMCで議論が始まり、年内にもテーパリングが開始されるとの見方も出てきています。

▣ 前回のテーパリング開始決定までのFRB

前回は、2013年12月のFOMCでテーパリングが決定されました(翌年1月からテーパリング開始)。

その1年前の2012年12月のFOMCでは、フォワードガイダンス(将来の金融政策の指針)を、「1~2 年先のインフレ率が 2.5%を上回ることがなく、長期の期待インフレ率が抑制されている限り、失業率が 6.5%を下回るまで、異例なほど低い金利水準を継続する」に変更し、数値基準を導入しました。

ただ、当時のバーナンキFRB議長は、失業率がそこまで低下する前に引き締めを開始するとし、ゼロ金利政策を経済情勢と関連付けるとともに、テーパリングに関しては、基準に到達する前に開始する可能性を示唆しました。

その後、2013年5月にはバーナンキ議長がテーパリング開始について具体的に言及したことがサプライズとなり、米長期金利が急上昇するなど金融市場が動揺しました(バーナンキショック)。

▣ 前回のテーパリング開始決定時は

リーマンショックを受けて、2009年10月には10.0%まで上昇した米失業率は低下傾向が続き、テーパリング決定前の2013年11月には6.9%と7.0%を下回りました(図表1)。もっとも、当時の完全雇用の目安とされるFOMC参加者による米失業率の長期見通しの5.5%にはまだ距離がありました。

その後も、米失業率は低下傾向が続き、FOMC参加者による米失業率の長期見通しも引き下がりました。そして2015年12月、米失業率が5%程度まで低下し、当時の米失業率長期見通しの4.9%が見えた段階で、利上げに踏み切りました。

他方、FRBが注視する物価指標であるコアPCE(食料およびエネルギーを除く個人消費支出)デフレーターは、物価目標である2%を下回る状況が続きましたが、期待インフレ率については、2013年は2%を上回る状態が続いており、テーパリング開始決定の材料になった可能性はありそうです。

▣ 失業率の低下はテーパリングの判断材料だが

2013年、FRBは失業率が7%に近づく中、9月のFOMCでは大方の市場参加者が予想していた利上げ開始を見送りました。失業率は低下しているものの、労働参加率の低下が一因だった模様です(図表3)。

昨年4月に14.8%まで上昇した失業率は、今年3月には6.0%まで低下しました。4月は6.1%に若干上昇しましたが、労働市場の改善傾向は続いているとみられます。労働参加率については、4月は61.7%と、前月の61.5%から上昇しましたが、63%を超えていたコロナ前の水準を下回っています。

手厚い失業手当が職場復帰を妨げていることや、遠隔授業なので子供たちを世話する必要があることなどが、労働参加率を押し下げているとみられます。

※16歳以上人口のうち就労中の人と就労意欲のある人の割合

▣ 人手不足も徐々に解消へ

もっとも、9月まで続く失業保険給付への特別加算については、一部の州が打ち切りに動き出しています。また、ワクチンの普及を受け、ニューヨーク市やロサンゼルスが学校の対面授業を全面再開する計画を発表するなど、遠隔授業が対面授業に置き換わっていくと、親の職場復帰を後押しすることも想定されます。

金融市場は、米雇用統計や物価指標、FRBの動向などを確認しながら、徐々にテーパリング開始を織り込んでいくことになります。とはいえ、緩和マネーの縮小への警戒や早期利上げ観測が強まることには注意が必要です。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/env/

 

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