OPECプラスの減産:インフレよりも米国の地位低下を心配すべき
減産量は軽視できない
米国では、3月に高まった銀行経営不安がひとまず和らいでいます。しかも足元、インフレ(物価高)鈍化の動きが示されています。これらにより金融市場は今後安定を取り戻す、と筆者も一時期待しました。
4月2日、期待にいったん水を差したのが、石油輸出国機構の加盟国などからなる「OPECプラス」です。その国々が、5月からの減産を発表したのです。1日の減産量は約110万バレルと、世界の産油量(図表1)の約1%です。原油市場は微妙な需給均衡で成り立っており、1%といえども軽視できません。
原油価格が一時急上昇
この発表は、筆者のみならず多くの人を驚かせました。OPECプラスは、昨年10月に日量200万バレルの大幅減産で合意したばかりです。この減産量が当面維持される、との観測が市場では優勢でした。
そのため今回の減産は不意打ちとなり、4月3日の原油相場は急上昇しました。代表的な原油指標であるブレント価格は前日比プラス6%超となり、1バレルあたり80ドル台半ばまで上昇したのです。このまま原油価格の上昇基調が強まれば、ガソリン高などを通じて米国などのインフレ率を押し上げかねません。
100ドル超えには遠い
とはいえブレント価格は、昨年の平均(100ドル弱)をまだかなり下回っています(図表2)。OPECプラスの減産を考慮しても、100ドル超の水準まで直ちに上昇するとは、おそらく考えにくいでしょう。
原油価格は、昨年後半に下落基調となりました。世界景気の減速で原油需要が抑制される、といった観測のためです。この点、米欧などの景気は当面低調になる、と予想されます。昨年からの利上げによる景気への影響が、今後明瞭になると見込まれるからです。そのことが、原油価格の上昇を抑制しそうです。
しかしこの減産は重要
そうした考え方などから、4月4日以降、原油価格は上値が重くなっています。そして、原油価格の前年比マイナス基調は継続しており、米国などのインフレが再加速するとの懸念も、今は抑えられています。
よって、OPECプラスの減産による市場参加者の焦りは、一時的なものにとどまるかもしれません。しかし、この減産が持つ歴史的な重要性に関しては、ほとんど変わりがないでしょう。米国などのインフレに与える影響もさることながら、それ以上に重要な意味を今回の減産は含んでいる、と言えるのです。
米国の地位低下が鮮明
減産を主導したのは、中東最大の産油国、サウジアラビアです。OPECプラスの構成国であるロシアも、この減産に対し小さくない発言力を発揮した模様です。これらが意味するのは、米国の地位動揺です。
バイデン米政権は、自国のインフレを抑えるため、かつ、ロシアの原油収入を圧迫すべく、サウジアラビアに原油増産を促していました。サウジアラビアはそれを裏切り、昨年10月に続き追加減産を表明したのです。銀行不安やインフレよりも米政権が心配すべきは、中東地域における米国の存在感低下です。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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