円とユーロ

急激な円安で焦った日本政府・日銀は、22日、ドル売り・円買いの為替介入を実施しました（→一時円高へ）。ただ、円は今年、ドルに次ぐ主要通貨であるユーロに対しては、対ドルほどには下落していません。

年初来、ドル円は足元約25％も上昇しています。一方、ユーロ円は約6％の上昇です（小さな上昇ではなく、円がほとんどの主要通貨に対し安いことに変わりなし。図表1）。これは、ユーロがドルに対して下落しているためです。ユーロ圏も日本も、経済や政治における悩みは尽きず、それらが通貨安の背景です。

厳しい冬に

ユーロ圏経済は、これから一層厳しい局面を迎えるでしょう。暖房のためのエネルギー需要が増える中、天然ガスなどの不足や価格高が予想されるからです。人々は、寒い冬を耐えねばならないのでしょうか。

エネルギー不足は、ウクライナ紛争が大きな原因です。特にドイツやイタリアなどは、ロシア産の天然ガスなどに頼っていたからです。紛争を受け欧州連合（ＥＵ）は、対ロシアの経済制裁を続けています（ロシア企業との取引制限等々）。それに対する報復で、ロシアはＥＵ向けガス供給を大幅に削減しています。

ＥＵの結束

この苦境で試されるのは、ＥＵの結束です。なぜ他国の紛争のために、光熱費の高騰に苦しまねばならないのか、と思う人もいます。そうした不満で、ロシアへの制裁に関しＥＵ内で足並みが乱れかねません。

すでに、対ロシアの姿勢は国により様々です。例えばハンガリーは、ロシアのプーチン大統領と親密な人物が首相です。また、ＥＵ第三の経済大国であるイタリアでは、親ロシアとみられる勢力が少なくありません。これらのため、対ロシアの経済制裁を緩めるべき、といった声がＥＵで増えるかもしれません。

最悪の事態？

これこそがプーチン氏の狙いとみられますが、それに屈するわけにはいきません。リベラル（自由主義）な民主主義を信仰箇条のように重んじるＥＵの主流派は、ロシアの独裁体制を到底容認できないのです。

しかし今、主流派から見て最悪に近い事態となりつつあります。昨日（25日）のイタリア総選挙（上院・下院選挙）で、世論調査（図表2）から予想されたとおり右派連合が勝利する見通しとなり、その連立政権が誕生する見込みなのです。しかも新首相になりそうなのは、「イタリアの同胞」党首、メローニ氏です。

ファシズム？

この党の源流は、ネオ・ファシズムです。ファシズムは、第二次世界大戦時にイタリアを覆った、独裁・反リベラル思想です。よってメローニ氏が首相となれば、「極右（自民族中心主義）」復活が懸念されます。

ただ、同氏は選挙戦で、ファシズムから距離を置きました。また、ＥＵ官僚に批判的であるものの、イタリアのＥＵ離脱は否定しています。とはいえ、右派連合は一枚岩でなく、今後、対ロシアの制裁緩和を推進するかもしれません。ユーロ圏の悩みは尽きず、その通貨は対ドルで一層の下落余地がありそうです。

図表入りのレポートはこちら

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