円安が止まらない:アベノミクス「負の遺産」

2022/05/02 <>

議論の混迷

円安誘導策だったアベノミクスの「遺産」で、円安が急激に進んでいます(4月28日にドル円は一時131円台、足元は130円前後)。こうした急変動の中、為替をめぐる日本の議論は、混迷を極めています。

「識者」の言説は、移ろいゆくものです。また、間違いを改めるべきことは、道徳の教科書が教えるとおりです。それにしても為替論の変化ぶりには、驚きを禁じ得ません。アベノミクスのもとでは、「円安で日本復活」といった言説が猛威をふるいました。しかし最近、「円安の弊害」を言い出す人が増えています。

緩和を継続

安倍政権は2020年に幕を閉じましたが、「遺産」は残っています。その第1の矢(大胆な金融緩和)などで円安が進んだのですが(図表1)、短期決戦だったはずの緩和策は、やめられなくなっているのです。

実際、日銀は、短期と長期の金利を超低位に抑える緩和策を、まだ固持しています。これは、緩和策(≒円安誘導策)を抜本的に修正すれば、アベノミクスの失敗を認めることになるからです。また、緩和策の修正で金利が上昇し円高となれば、低金利に頼る政府財政や、円安を求める輸出企業の業績を圧迫します。

円安の弊害

しかし政府は、円安の弊害を認めつつあります。食品、電気、ガソリンなどの値上がり(図表2)は、円安に助長されているためです。それによる国民の困窮に、選挙を控える政治家は配慮せねばなりません。

とはいえ、円安を直接的に阻止する方策は、政府にはほとんどありません。市場機能をゆがめる為替介入については、現在の為替水準では、米国の全面的な賛同が得られるとは考えにくいからです。また現政権も、アベノミクスの失敗を公言するのを避けているため、「円安は悪」と言い切るわけにもいきません。

政治の迷走

ただ、現政権は、円安などによる物価高騰に配慮する姿勢を、さかんにアピールしています。そして岸田首相は26日、物価高への対策を発表しました。円安阻止が難しい以上、タイムリーな対策と言えます。

対策の内容は、ガソリン補助金の拡充、低所得の子育て世帯への給付金などです。ただし、これにより、財政赤字はさらに膨張しそうです。円安は安倍政権が推進したものですが、その「遺産」を清算できないがゆえに、政府は円安の弊害を和らげることに必死なのです。政治の迷走、としか言いようがありません。

迷える人々

迷走しているのは、政治や日銀に限られません。「識者」や国内メディアも、円安は良いのか悪いのか?との問いに関し、迷える人々と化しているのです(少なくとも生活者の視点では円安は悪、が正解ですが)。

情勢が変わったので円安が良いとは言えなくなった、と開き直ってはなりません。資源や食料の輸入に頼る日本経済の構造は、以前と比べ、大きくは変わっていないのです。安倍政権の提灯を持った「識者」やメディアも、アベノミクスは失敗だったと認め、「円安の弊害」をもっと大声で叫ぶことが望まれます。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融市場の注目材料を取り上げつつ、表面的な現象の底流にある世界経済の構造変化を多角的にとらえ、これを分かりやすく記述します。
<本資料に関してご留意していただきたい事項>
※本資料は、ご投資家の皆さまに投資判断の参考となる情報の提供を目的として、しんきんアセットマネジメント投信株式会社が作成した資料であり、投資勧誘を目的として作成したもの、または、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。
※本資料の内容に基づいて取られた行動の結果については、当社は責任を負いません。
※本資料は、信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。また、いかなるデータも過去のものであり、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。
※本資料の内容は、当社の見解を示しているに過ぎず、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。記載内容は作成時点のものですので、予告なく変更する場合があります。
※本資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。当社の承認無く複製または第三者への開示を行うことを固く禁じます。
※本資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第338号
加入協会/一般社団法人投資信託協会 一般社団法人日本投資顧問業協会