ウクライナ危機の本質:プーチン大統領たちの執念
今、注視すべき危機
多数の生命が残酷に奪われるとき、世界経済が成長しても喜べません。よって、戦争勃発のリスクを、投資家も常に注視すべきです。そして今、最も危機的な状況となっているのは、ウクライナの情勢です。
ロシアなどと共に旧ソビエト連邦(旧ソ連)を構成した同国をめぐり、米国・欧州連合(EU)vs ロシアの緊張が高まっているのです。米欧を巻き込んだ戦争がウクライナで勃発すれば、甚大な犠牲が発生するでしょう。金融市場全体への影響は現時点では小さいものの、戦争が起これば市場も混乱するはずです。
ロシアの真意は何か?
緊張が高まっているのは、昨秋以降、ウクライナの近くに約10万人のロシア軍が集結しているためです。これにより、隣国のウクライナにロシア軍が侵攻するのでは、という警戒が米欧で広がっています。
プーチン大統領が率いるロシア政府は、そのような侵攻意図はない、と主張しています。軍を集結させているのは、米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)がウクライナでの勢力を拡張し、ロシアの安全を脅かすのを阻止するため、と言うのです。しかしロシアの真意を、米欧は測りかねています。
一連の協議は不成功
ロシアと米欧は互いに疑心暗鬼になっていますが、双方とも、大きな戦争を望んでいません。その勃発を回避すべく、1月10日にはロシアと米国が、12日にはロシアとNATOが、高官協議を行いました。
しかし双方の要求には深い溝があり、一連の協議でもそれは埋まりませんでした。そのためロシアのウクライナ侵攻は、より現実味を帯びています(その場合、米欧がウクライナをどのように軍事支援するのか、全く不確実)。ただ、双方とも協議を続ける意向を示唆しているので、緊張緩和の希望は残っています。
結局、米欧の譲歩か?
ロシアの要求は、ウクライナなど旧ソ連構成国を、今後、NATOに決して加入させないことなどです。しかし、開かれた同盟を標ぼうするNATOとしては、そのような要求を簡単には受け入れられません。
それでも米欧は、戦争を避けるには、ある程度の譲歩を余儀なくされそうです(旧ソ連構成国におけるNATO軍の活動抑制など)。欧州は、ロシアの天然ガス(図表1)などに依存しているため、ロシアと争いたくないのです。中国との覇権競争に専念したい米国も、対ロシアでは譲歩する覚悟があるはずです。
偉大なロシアの復活
ロシアは資源大国である上、軍事力では、依然として侮れない超大国です(図表2)。また、ソ連の解体(1991年)で冷戦は米欧が勝利しましたが、その屈辱を忘れていないロシア人は、少なくありません。
プーチン氏を突き動かすのも、そうした屈辱と、偉大なロシアを復活させたいという執念です。同氏が昨年発表した英文の長い論説を貫くのも、ウクライナは歴史的・文化的にロシアの一部、との主張です。そうした執念が根底にある以上、対ウクライナのロシアの強硬姿勢は続き、戦争のリスクは残るでしょう。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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