サプライチェーン危機:コロナは残り、世界は変わる

2021/09/27

貿易の急回復

 昨年後半以降、世界経済は驚くべき速度で持ち直しました。ただし「コロナとの共存」を選ぶ以上、かつての経済構造に戻ることはあり得ません。コロナウイルスは、すでに大きな不均衡をもたらしています。

 実際、サービス業(外食、旅行など)は、正常化には遠い状況です。一方、オンライン化や「ステイホーム」に伴い、電子機器や住居関連の需要が増えています。それを受け、物品輸出は、感染危機前の水準を5%ほど上回っています(図表1)。世界経済の回復をリードしたのは、そのような貿易や製造業です。

副作用の発生

 しかし、物品需要の回復は、あまりにも急激でした。その副作用で、原材料や部品・製品の供給不足、遅延が発生しています。さらに人手も不足しており、それらに伴い、価格の上昇や賃金増が生じています。

 これは、景気の悪化で失業が増え、購買力が低下し、物品需要が減る、という逆の状況よりは悪くありません。とはいえ供給不足が続けば、企業や店舗は、本来であれば可能だったはずの売上げを、達成できなくなります。また、原材料や部品などの高騰が小売価格に転嫁されれば、インフレが家計を圧迫します。

半導体の不足

 供給不足の代表例は、セミコンダクター(半導体)です。半導体は、スマートフォン、パソコン、様々な家電、ゲーム機など、オンライン化により需要が急増した製品において、中核的な部品であるからです。

 半導体は、ハイテク化した自動車にも必須なので、その不足により、自動車生産も打撃を受けています。8月以降には、トヨタが生産計画を引き下げています(→同社株は一時大幅安)。それまで同社は、仕入れ先への強い支配力などで半導体不足に耐えてきただけに、同社の減産は、問題の深刻さを印象づけました。

海運の大混乱

 もう一つ、供給面の問題を象徴するのが、貿易に用いられる船舶やコンテナの不足、および海上輸送費の高騰です(図表2)。これらも、原材料、製品の調達遅延や物価の上昇を通じ、企業や家計を苦しめます。

 特に中国やベトナムなどからの輸出に関し、時間とコストが増大しています。アジア製の電子機器、家具や衣料品などに対し、世界的な需要が増えているからです。また、中国などは、工場や港湾でコロナウイルスの感染が確認されると、それらを素早く閉鎖します。この結果、生産や海運が大きく乱れています。

供給網の弱点

 海上輸送の混乱が収まるのは、来年以降になりそうです。半導体については、引き続き需要増が見込まれる一方、生産能力の増強には莫大な投資が必要なので、不足解消には向こう1年前後を要するはずです。

 また、コロナウイルスが浮き彫りにしたのは、サプライチェーン(部品などの供給網)の意外な弱さです。ウイルス撲滅が困難である以上、各企業は今後、仕入れ先の地域分散などで供給網を再編成せねばなりません。このようにコロナウイルスをめぐる経験は、まだまだ多くの変革を各方面にもたらすでしょう。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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