一難去って:ブレグジット後の英国には、さらなる多難

2021/01/18 <>

聖なる夜に

昨年のクリスマスイブ。英国は、聖なる祝福に、ひとときの世俗的な安らぎを添えました。その日の午後、英国と欧州連合(EU)が、長い協議の末、期限切れ寸前で自由貿易協定の合意に達したのです。

英国は、2016年6月の国民投票で、ブレグジット(英国のEU離脱)を決めました。その後、紆余曲折を経て、昨年1月末にEUから離脱しました。ただ、12月末までは移行期間とされ、英国とEUとの新たな関係の開始日は、今年の年初です。その新しい関係を規定する枠組みが、今般の貿易協定です。

「主権回復」

結局、「合意なき離脱」は回避されました。これは、英国・EU双方への素晴らしいプレゼントです。自由貿易協定に基づき、英国・EU間の物品貿易には、無関税の原則が維持されることになったのです。

また、英国とEUの間で通商などに関し争いが生じた場合、EUの機関である欧州司法裁判所ではなく、独立した機関が仲裁役を担う旨が定められました。英国内のブレグジット推進派は、それを大きな成果と誇っています。EUから主権を取り戻す、というのが、そうした勢力の大義名分だったからです。

変異種の猛威

もっとも、年明けの英国は、この「主権回復」を盛大に祝うムードではありません。これには、多くの理由があります。とりわけ、いまの英国は、コロナウイルスをめぐり危機的な状況にあるからです。

英国では、昨年12月、他の主要国に先行してワクチン接種が始まりました。しかし、その前に発生したコロナウイルスの変異種が猛威を振るい、入院患者数は昨年春を大きく上回っています(図表1)。これを受け、1月上旬、ロックダウンが再導入されました(ただし、昨年春の活動制限に比べ若干緩やか)。

離脱を後悔?

「主権回復」を手放しで喜べないのは、EU離脱に対する国民の姿勢変化も関係しています。EUとの協議における英政府の迷走を見て、離脱は間違いだった、と考える人の方が現在は多いのです(図表2)。

たしかに、無関税原則は維持されました。しかし、英国がEU単一市場から離脱する以上、EUとの貿易は今後、煩雑な通関審査を要します。また、金融などサービス部門にかかわるルールの詳細は、今後の協議で詰めねばなりません。そのような障害や不透明感も残るため、単純に喜べないのは当然です。

英国分裂へ?

また、北アイルランドについては、アイルランド共和国との通関審査を避けるべく、EU単一市場に残ることとなりました(製品・食品などにEU規制適用)。これは、英国本土との分断を促しかねません。

さらに、スコットランドによる独立・EU再加入の動きも、これから盛り上がりそうです。スコットランド人の大半は、EU残留を望んでいるからです。そのように、ブレグジットは、多くの難題をもたらします。ウイルスの猛威も踏まえると、英国が歓喜の祝杯をあげられるのは、まだ先のことでしょう。

 

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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