地味に通過した日銀の金融政策決定会合

2016/11/04

月跨ぎと祝日をはさむ格好となった今週ですが、11月1日(火)には日銀の金融政策決定会合が終了しました。

 

元々、追加の金融緩和など新たな政策への期待感がなかったこともあり、国内株市場への影響自体は限定的でしたが、目標である物価上昇率2%の達成時期を「2017年度中」から「18年度ごろ」に先送りされ、黒田総裁の任期中(2018年4月まで)の目標実現が現実的に難しくなりました。さらに、17年度の物価上昇率見通しも従来の1.7%から1.5%に引き下げています。

 

すでに色々なところで議論されているため、ここでは深く掘り下げませんが、これまでに日銀が実施してきた金融政策とその規模を踏まえると、金融政策だけでデフレ脱却と物価の安定化を実現するのは難しいことにあらためて気付かされます。

 

それと同時に、一般消費者の視点に立てば、日銀や政府がここまでデフレ脱却や物価上昇にこだわる必要性がイマイチ分からない感覚もあります。所得がほとんど増えず、社会保障費などの負担ばかりが増える中では、日頃購入している食品や日用品の値上がりを目にした際、その理由が円安であろうと、消費増税であろうとあまり関係なく、消費を控えることになります。「今ここで物価が上がっても困る」という人も多いかと思いますし、「物価が下がるデフレの方が暮らしの面ではインフレよりよっぽどいいのではないか」という意見もあるようです。

 

デフレで問題とされるのは物価の下落そのものではありません。

 

デフレ下では相対的に現金の価値が高くなり、借金が不利になります。例えばローンを組んで、家を買ったり車を買ったりする行為がしにくくなるほか、デフレが進行する中での現金は持っているだけで価値が高くなるため、リスクをとる投資が割に合わずに控えられ、経済にマイナスに働く可能性が高くなります。

 

また、別の問題もあります。理屈の上では、「デフレで物価が下がれば賃金もそれに合わせて下がる」ことになるのですが、企業としては、社員の反発を考えるとそういうわけには行きません。となると、リストラなどで社員の数を減らしつつ、パートやバイトを雇ってカバーするという動機付けになります。パートやバイトの非正規社員の賃金はその時の経済情勢で決まるため、デフレの状況に合わせて賃金を安くして雇うことが可能です。となると、正社員が減る一方で、非正規社員が増え、両者の賃金格差は拡大することになります。格差が拡大した分だけ消費の裾野は狭くなります。

 

そう考えると、確かにデフレマインドの払拭は重要ですが、だからと言って、ただインフレにすれば良いというわけではありません。物価上昇自体が好景気をもたらすわけではなく、「経済が成長して所得が増え、それに伴う結果として、物価が上がる」というサイクルに持っていかなければならず、今のところあまり成果が実感されていない成長戦略や、将来不安を軽減する社会保障制度の改革の進展が求められているのかもしれません。

 

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