三菱東京UFJのPD資格返上で日銀プレイも霞む?

2016/06/10

「アフター米雇用統計」となった今週の国内株市場ですが、概ね堅調に推移していると言えます。確かに、米雇用統計ではNFP(非農業部門雇用者数)の数字が予想を大きく下回るショッキングな数値だったことを受けて、週初は円高・株安の反応でスタートしましたが、すぐに持ち直した印象です。

今回の米雇用統計の結果については、「特殊要因によるもの」という解釈が多く、逆に次回の雇用統計は今回の反動で強い結果が予想されるため、来月のFOMCでの米利上げを後押しするのではという見方もあるようですが、少なくとも来週の米FOMC(6月14日~15日)では利上げの見送りが規定路線になりつつあります。

来週はその米FOMCとほぼ時を同じくして日銀の金融政策決定会合が開かれます(6月15日~16日)。前回の会合(4月27日~28日)前には、いわゆる「日銀プレイ」によって株式市場が大きく上昇する場面がありました。当時の日経平均は、15,500円ぐらいから17,500円ぐらいまで一気に水準を切り上げました。その後の「ゼロ回答」の結果を受けて急落したことも含めて、株式市場の値動きは割とダイナミックでしたが、今回はどちらかというと値動きに迫力が感じられません。東証1部の売買代金も2兆円割れが目立っています。23日に行われる英国のEU離脱を問う国民投票を控えているためか、イマイチ追加緩和期待ムードが盛り上がっていないような印象です。

そんな中、今週8日(水)に、三菱東京UFJ銀行が国債入札の特別資格であるプライマリーディーラー(PD)資格の返上を検討しているとの報道が流れました。PD資格制度は2004年に始まったもので、この資格を得ると、財務省との会合に参加して意見交換できる代わりに、国債発行予定額の4%以上の応札(1%以上の落札)が義務付けられるというものです。

現時点でPD資格を保有している金融機関は報道のあった三菱東京UFJ銀行を含めて22機関です。今回の資格返上が受け入れられれば義務的に国債入札の安定消化を行う金融機関がひとつ減ることになりますが、PD資格を有していなくても国債の入札自体には参加することはできますし、PD資格は保有すること自体がある意味ステータスのような位置付けでもあります。

そのため、今のところの影響は限定的と言えますが、日銀のマイナス金利政策に対する銀行側からの不満アピールの側面が強いとも受け取られています。他のメガバンクなどが追随するようなことがあれば、国債の流動性に対してネガティブな印象は少なからず与えそうです。となると、来週の日銀金融政策会合で追加金融緩和を実施するためのハードルが一段上がったと考えられます。実際、8日(水)の米ドル円相場が円高に進みましたが、日銀追加緩和への期待値が後退した表れかもしれません。

日銀は現在、金融緩和策として年間80兆円の規模で国債を購入していますが、日銀が国債を直接引き受けることが禁じられているため、金融機関が落札した国債を買い取るという構図になっています。すでに国債の利回りはマイナスになっていますので、国債を引き受けて保有するだけで損失となりますが、日銀が買い取ってくれるため、金融機関は日銀へ売却するために国債を引き受けている格好になっています。ただし、日銀が国債購入の金額を減らすなど、今後金融緩和姿勢を引き締める「出口」を模索した際に、国債の買い手が出てくるのかという不安が高まり、国債価格の下落や利回りの急上昇が予想されます。

先日の消費増税見送り決定の際には、財政再建が遠のいたことで発行体リスクによる国債の格下げの可能性を指摘する声も出始めましたが、今回の報道では国債の流動性リスクの芽もあることをあらためて意識させられたと言えそうです。

 

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