「5年ぶり安値」をつけた中国人民元

2016/05/27

今週25日(水)に、中国人民銀行(中央銀行に相当)が公表した対米ドルの人民元基準値は、6.5693元でしたが、この水準は何気に約5年ぶりの安値水準だったりします。人民銀行が突如として人民元レートを切り下げたことをきっかけに、人民元安・株安・景気減速不安が進んだ、昨年夏のいわゆる「チャイナ・ショック」はまだ記憶に新しいですが、今のところ、足元の人民元安が中国国内外の市場で材料視されるような動きは見せていません。

というのも、今回の人民元安は中国経済等への懸念によるものではなく、米国の追加利上げ観測の高まりによるものという見方が大勢を占めているからです。実際に、中国から発表される経済指標を見ても、まだ強弱まちまちではありますが、かつてのような悲観ムード一色でなく、むしろ持ち直しているという認識を持たれています。中国の経済指標に対する信頼性には様々な議論はありますが、ひとまず景気減速傾向は落ち着きを見せていると考えて良いと思います。

ただし、足元の中国経済が持ち直している主因を整理してみますと、不動産投資への依存が強まっており、再び不安が高まる火種が燻っているようにも思えます。2016年1月~4月の中国の経済指標を見ると、不動産開発投資や公共投資の伸びが顕著である一方、民間投資や工業生産、輸出は減速が続いています。とりわけ、不動産投資の活発化は不動産価格の上昇に現れています。中国主要都市の平均不動産価格は前年比で11%~50%も上昇しています。

その背景にあるのが、景気浮揚のために実施した不動産取引規制の緩和です。具体的には住宅ローンの頭金比率の引き下げや、不動産取引に係る税金の減税などを昨年夏のチャイナ・ショック以降に実施しており、こうした政策が効を奏しているわけです。元々、中国当局は不動産バブルの過熱や崩壊を警戒し、不動産取引を抑制してきたのですが、方針転換した格好です。

ただし、不動産取引の緩和策は先ほどの価格急騰にも見られるように、当局の想定以上のペースになっていると思われます。そのためか、当局は再び抑制策を打ち出し始めましたが、これにより、わずか1カ月ほどで、深センの新規分譲住宅の成約件数が前月比で半減するなど、今度は想定以上のペースで引き締めが効き始めている格好です。

中国は外需・投資主体から内需・消費主体の経済構造への転換を計っています。3月の全人代(全国人民代表大会)では、「供給サイドの改革」が打ち出され、ゾンビ企業淘汰など国有企業改革や民間企業の参入障壁の撤廃、行政・金融システム等の構造改革などに取り組んでいる最中です。改革に伴う経済下押し圧力を、不動産投資や公共投資などによって支えようとしていると思われますが、経済下支えのために実施している政策効果の振れ幅が大きくなっているため、今後も上手くコントロールできるかが焦点になります。

 

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