「全人代」で中国株は騰勢を強められるか?

2025/03/07

3月相場入りとなった今週の株式市場ですが、米中で2つの講演が今週5日(水)の同日に行われたことが市場の関心を集めました。

ひとつは、米国の上下院合同本会議で行われたトランプ大統領による「施政方針演説」、そして、もうひとつが、中国の全人代(全国人民代表大会)の開幕に合わせて、李強首相が行った「政府活動報告」です。

とりわけ、後者については、中国における今年のGDP成長率目標が示されるほか、経済を含む主な政策の方針やその内容などが見えてくることもあり、毎年3月になると話題になる中国の重要イベントですが、これを受けた5日(水)の中国株市場は、上海総合指数が前日比で0.53%高、香港ハンセン指数は2.84%と上昇し、揃って良好な初期反応を見せました。

とはいえ、香港ハンセン指数の強さが目立つ一方で、上海総合指数の上昇率は「材料に反応した割には微妙」です。実はこの点を読み解くことが今後の中国株をウォッチしていく上で重要になってくると思われます。

結論から言ってしまうと、今回の中国全人代の「政府活動報告」の内容にサプライズがなく、ほぼ事前の予想通りだったこと、そして、報告内でAI支援に言及する場面が度々あったことで、テック企業が多く上場している香港株が物色され、株価上昇が大きくなりました。

香港株の盛り上がりは、まだ記憶に新しい1月27日の「DeepSeek(ディープシーク)ショック」をきっかけに、中華テック株への注目が高まったことで始まりましたが、これに加え、先月2月17日に習近平主席が大手民間企業の幹部を北京に招いて開催したシンポジウム、そして今回の全人代でのAI支援の言及と、政治的な動きも後押しになっている格好です。中国株市場は、政治的な思惑を材料に相場を形成することが珍しくなく、足元のテック株を中心とする香港株市場の上昇はもうしばらく続くかもしれません。

その一方で、中国全体の景気の先行きについては、今回の報告であまり期待感が高まらなかったと考えられます。確かに、2025年のGDP成長率目標は「5%前後」と、前年と同じ高水準を維持しましたし、「適度に緩和的」な金融政策の維持や、財政赤字額の対GDP比を従来の3%から4%に引き上げて、財政政策を積極的に打ち出す姿勢もアピールしています。実際に、確認できる範囲では、期限が10年以上の特別国債を1兆3,000億元発行するほか、地方政府のインフラ債も4.4兆元に拡大して発行するなど、前年よりも規模が拡大しています

ただし、その調達した資金は、銀行への資本注入をはじめ、地方政府および融資平台の債務削減、在庫住宅の買い取りなどが中心となっていて、「景気を押し上げる」というよりは、「状況を悪化させない」ために使われる印象です。もちろん、消費促進のために、耐久財の買い替えの補助金にも3,000億元割り当てられる見込みで、日本円換算で6兆円と金額は大きいものの、昨年打ち出した買い替え補助金政策とあまり変わらない規模であるほか、その効果も限定的だったことを踏まえると、積極的に好感されなかったと思われます。

さらに、米中関係の不透明感も考えると、景気回復を期待する中国株買いが本格化するには、まだ時間がかかるかもしれません。

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