東証の市場再編、私ならこうする

皆さんもご存知のように今年4月から東京証券取引所の市場区分が変更される。東証は現在の1部、2部、ジャスダック、マザーズの4つの市場区分を「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編する。昨年12月末に、東証上場企業による市場選択の申請を締め切ったのだが、実質最上位のプライムには1841社が上場することが判明した。

今回の大掛かりな再編では、投資マネーを呼び込むため企業に成長を促した上で、各市場の役割をはっきりさせようとする狙いがあるらしい。現在の東証1部市場は上場社数が2185社あり、全体の6割が集中している。海外の主要市場と比べても企業数が多い。しかも世界の主要市場の時価総額をみると、東京は欧米に大きく水をあけられている。新設するプライムは多くの海外投資家を呼び込むグローバル企業が上場する市場との位置づけだ。

しかし、一番目につく問題は「プライム」と言いながら、プライムに値しない企業がたくさん入っておりほとんど改革になっていない点だ。プライムの基準を満たさない企業でも再編後の経過措置により、基準を満たすための計画書を提出すれば当面はプライム市場に所属できる。そういう中途半端な企業が344社もある。しかも、「スタンダード」「グロース」を設けたことで、従来の東証二部、ジャスダック、マザーズという市場区分がなくなり、東証二部とジャスダックのベンチマークが消滅するという問題も看過できない。ただし、マザーズ指数はマザーズ先物があるため継続される。それと悩ましいのがTOPIXの中身も徐々に入れ替わる段階的な改革が2025年1月までおこなわれるため、ここにもベンチマークの問題を感じる。

プライム市場の1社あたりの時価総額(21年末)をその実態がわかるよう中央値で見た場合、どれくらいあるのかご存じだろうか? 再編前の東証一部が446億円、再編後のプライムは599億円である。確かに150億円ほど増えているが、これはとてつもなく小さいのだ。ちなみにNY市場は3269億円、ナスダックのグローバルセレクトは1999億円、ロンドンのプレミアムは1948億円。いずれも2000億円~3000億円の規模があり、東証プライムの3倍~5倍。それでもあくまで中央値なので、もちろん小粒の企業も多く紛れている点は指摘しておきたい。

もし、グローバル市場に向かって「日本には多くの魅力的企業がある」、しかも「割安に放置されているものが多い」「皆さん注目してください!」というコンセプトを明確に打ち出すとすれば、私なら時価総額5000億円以上の企業をプライムとして定義する。こうすれば対象企業は約250社。中央値も1兆円近くのレベルに引き上げることができる。もちろん、GAFAMのように100兆円、200兆円を超えるような企業は日本市場にはないが、今のような東証一部の大所帯に埋もれて注目度が薄いがゆえの低評価に甘んじている企業には光が当たってくると思う。中央値を1兆円近くに引き上げて、銘柄数を250社に絞り込めばグローバル市場でも戦える。

これを実現するために一番スムーズなのは、東証一部の上に時価総額5000億円以上のまさしく「東証プライム」を作り、日本を代表する企業群のグループを形成することだ。とにかく、明確な特徴を持った1つの市場としてスポットを当てる形で新たな市場を作れば、今回のベンチマーク問題など発生しなかったはずだ。東証プライムの下の東証一部企業には頑張ってプライムに入ってもらうようにハッパをかける、またグローバルの世界に進出するために企業側も努力をする、こういうムードを作り出して欲しいのだ。その一方で、現在の上場廃止基準を厳しくして、もはやパブリックの名に値しないような企業には出ていってもらう形にしたい。大学入試に合格した後は安泰、というのではダメだ。欧米の大学は入学した後からが本当の勝負で熾烈な努力が求められる。そうした雰囲気が必要だ。

先ほど述べた現状のTOPIXは東証1部の全銘柄で構成されるが、市場再編に伴ってプライム市場とは切り離される。新たなTOPIXは流通時価総額100億円以上の基準を設けて絞り込むため、その要件を満たさない企業は対象から段階的に外れる。もし仮に私が提案した形での「東証プライム」を作れば、TOPIXはもちろんそのまま継続だ。要するに「東証プライム」という新たなベンチマークを1つ作る形で済む。つまらない企業がわんさか入っているTOPIXには投資できないが、「東証プライム」指数なら投資したいというグローバル投資家はたくさん出てくるはずだ。なぜなら日本を代表する企業群の指数という明確な位置づけがあるからだ。日本に投資するなら、まずは「東証プライム指数」に投資するのが基本、という認知を得ることができる。もちろん、「東証プライム」を作ったところで日本企業の中身が急に変わるわけではない、しかし今の改革だと明確なコンセプトを作り出すという意味では明らかに失敗である。

プライム市場に上場する企業一覧を見ていて驚いたのが、例えばレオパレス21のような企業でもプライムを目指しているらしいという点だ。アパートの施工不正問題で信用はガタ落ち、業績はボロボロ、HPを覗いてみれば代表者たる社長の顔写真すら載っていない。お粗末すぎる。別にレオパレス21だけを槍玉に挙げるわけではないが、このような企業がプライムに入ったら大きな問題だと思う。

【太田忠投資評価研究所からのお知らせ】
インターネットによる個人投資家向けの投資講座へのご入会は随時受付中。
ご興味のある方はぜひ一度、弊社のホームページをご訪問下さい。
⇒太田忠投資評価研究所の「投資講座」

【ダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチからのお知らせ】
「ザイ投資戦略メルマガ」がスタートしました。
メルマガ配信&モデルポートフォリオ形式による投資助言です。
⇒DFRの『太田忠の勝者のポートフォリオ』

【FM軽井沢からのお知らせ】
『軽井沢発!太田忠の経済・金融“縦横無尽”』を毎週土曜日午後4時~5時に放送中。
(再放送は毎週日曜日午後9時~10時)
インターネットラジオでスマホ・パソコンにて全国からどこでも視聴が可能です。
詳しくはFM軽井沢のホームページをご覧ください。
⇒FM軽井沢「ホームページ」

太田忠投資評価研究所株式会社
機関投資家が敗者のゲームならば、個人投資家は「勝者のゲーム」をしよう!株式投資を資産増加に直結させ、個人投資家の資産運用力向上のためのサービスを提供する太田忠投資評価研究所の太田忠のコラム。