トランプ大統領、全米遊説へ─税制改革の期待は株高円安の要因

 

大統領を動かした側近や与党執行部の中間選挙を控えた危機感が大枠合意の背景とみています。

大統領、税制改革を説く全米遊説へ

法人減税(現行35%→22~25%へ。大統領公約は15%)を含む米国税制改革への期待が再燃しつつあり、法案成立の目途とされる年末にかけ、米国株やドル、ひいては日本株の下支え要因となりそうです。きっかけは「トランプ政権と議会が、法人減税を含む税制改革のとりまとめで前進」(米政治専門サイトのポリティコ、8月22日付)等の報道です。コーンNEC(国家経済会議)委員長は「税制改革の必要性を国民に呼びかける大統領演説が、まず水曜日(30日)にミズーリ州でスタート、数週間かけ全米各地で実施」(英FT紙、25日付)と表明しました。

バノン解任がもたらした大枠合意

大統領側近と与党執行部で構成される6名のメンバー、すなわち「ビック6」(注)が先週、税制改革の方向性で大枠合意に至りました。これにより、今後は、ホワイト・ハウスの手を離れ、議会審議がスタートします。今年中の本会議での可決・成立をめざし、両院の委員会は、税制改革法案の作成作業に入ります。「議員が夏季休暇から戻る9月初から議会審議を始めたい」との米政権のスケジュール通り、税制改革は本格的に動き出しました。

(注)コーンNEC委員長やムニューシン財務長官という大統領側近、ライアン下院議長、マコネル上院院内総務という共和党の上下両院リーダー、および各院で税制を担当する委員会の両委員長(下院歳入委員会はブレイディ委員長、後述)という与党執行部で構成されるメンバー6名のこと。

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情勢の急展開をもたらしたのは、バノン首席戦略官の更迭(8月18日付)と筆者はみています。白人至上の極右思想を支持し、イスラム圏数ヵ国からの入国制限の立案などで国民やメディアの反発を招き、政権内や共和党内でバノン批判が高まっていました。

大統領をも蚊帳の外に置く与党の危機感

コーンNEC委員長は、米南部州シャーロッツビルでの白人至上主義者グループと反対派の衝突事件(8月12日)に対するトランプ大統領の姿勢を批判し「辞表を書きかけた」(25日)と公言する一方で、前述の大統領の全米遊説スタートを(大統領本人に代わって)表明しました。「バノンを取るか、自分(コーン)を取るか?」の二者択一を大統領に迫ったとみられます。

このように考えると、「トランプ大統領がツイッターでライアン下院議長とマコネル上院院内総務を名指しで批判」(24日)という一見不可解な出来事にも、納得がいきます。「与党共和党が自分の提案に従わず、混乱が生じている」との大統領のいらだちは、自身が蚊帳の外に置かれ、与党執行部ペースでの進展に不満を漏らしたツイートだったようです。国民へのアピールのため大統領が全米遊説に行かされる形です。「中間選挙での敗北を避けたい」との与党執行部の危機感が、大統領を動かす局面に入ったようです。

中間選挙に向け共和党は現実路線か

①対中国など貿易赤字削減を狙って(輸入業者や小売業者等の反発が強い)輸入品への国境調整税を唱えたバノン首席戦略官の辞任に加え、②同じく国境調整税を唱えたライアン下院議長の主張の取り下げによって、上述の「ビッグ6」の大枠合意が実現した形です。下院歳入委員会の委員長も経験し実務に精通するライアン議長の歩み寄りで、法案成立の公算は高まったと考えられます。

さらに、減税の財源ねん出の目的もあったオバマケア(医療保険制度改革)代替法案の議会審議が難航し、財源を十分確保できない現段階での前述「ビッグ6」の大枠合意からは、均衡財政を唱えるはずの共和党が現実路線に変化した印象を受けます。共和党は「向こう10年間で均衡財政が維持されれば、上院で(通常の60名でなく)過半数50名の票で税制改革法案を可決できる」とのルール(reconciliation)を活用し、野党民主党の反対を封じる作戦です。「当初の数年間は一時的な財政赤字の拡大も仕方ない」との現実路線に共和党が傾きつつある様子です。

「オバマケア代替法案と異なり、共和党は税制改革法案では一丸になっている」との下院歳入委員会のブレイディ委員長の発言(8月15日)が本当か否か、市場は注目しています。

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かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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