日経平均2万円台を買う海外勢─米国景気の上振れリスクを意識
高値更新中の米国から流出の続く資金が、欧州、新興国に加え日本へも流入しつつあるようです。
海外勢に踏み上げられた個人投資家
昨日公表された投資部門別・売買動向(東証調べ)では、日経平均株価が2万円台にのせた先週(6月2日(金)迄の5日間)は、「海外投資家」が4,282億円買い越し、「個人」が3,217億円の売り越しでした。海外投資家の買い越し額は、今年に入って2番目に多く、最も多かったのは5月12日(金)迄の週で、買い越し額は5,602億円でした。ちょうど19,900円台にのせた週です。その週も個人は5,101億円の売り越しでした。「2万円付近が取引レンジ上限」との相場観と思われる個人投資家の売りが、海外勢の買いに吸収され、踏み上げられるように株価は上昇した形です。
米国株価上昇が促す国際分散投資
海外勢はなぜ、個人投資家からみれば「高値」水準で、敢えて日本株を買うのでしょうか? 背景には、「米国株の力強い上昇を受けた国際分散投資の資金フローが一部、日本にも流れてきた」可能性があるかも知れません。
NYダウは5月17日、「トランプ大統領が前FBI(連邦捜査局)長官にロシア関連捜査の打ち切りを求めた」などロシア疑惑報道を受け前日比370ドル超(▲1.8%)急落しましたが、翌々日には値をほぼ戻し、押し目買い圧力の強さを市場に印象づけました。先週は終値で過去最高値を更新し(6月2日)、前FBI長官の議会証言があった昨日(6月8日)も取引時間中に最高値を一時更新しました。昨日はナスダック総合指数が終値で過去最高値を更新しています。
この約2ヵ月間、「米国株式市場から資金流出が続く一方、欧州や新興国へ資金が流入している」との観測が市場では意識されています。先月の拙稿(注)でも触れましたが、ITバブル崩壊等を「事前に警告した」として有名なシラー教授が、米CNBC放映番組で国際分散投資を呼びかけるなど、米国株に割高感が少しずつ出始めていることが一因のようです。
(注)シラー教授は「現状の米国株価は、ITバブル崩壊直前の2000年頃ほど極端な割高感はない。大暴落が迫っている訳でもない。しかし長期投資家であれば敬遠する株価水準になった。米国株式以外への国際分散投資が望ましい」との見解です(MYAM Market Report「『割安感ある欧州株』─米国投資家の国際分散投資の受け皿に」2017年5月25日付)。
米国景気の上振れリスク
米国株の力強い上昇の理由には、米国景気の改善期待が大きいようです。2017年1-3月期米国GDP成長率の落ち込みを「株価急落への予兆」と懸念した市場が、「景気減速は一時的」として「米国景気は拡大が続く」との見方が増えてきた様子です。
上述の個人投資家と同様であった筆者の相場観を変えたのは、5月24日に公表されたFOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨でした。FRB(米連邦準備制度理事会)は「米国景気には上振れリスクがある」と判断しただけでなく、「トランプ政権の減税策が実施されれば、現状のゆるやかな利上げペースを早めざるを得ない」と示唆しました。トランプ・ラリーの株高が勢いを失ったことから、再び株高となるのは「トランプ政権の減税策の議会成立が見込まれる年末以降」と市場はあきらめかけていました。しかしFRBは、「トランプ減税が無くても米国景気は拡大を続ける」と示唆したのです。
その後、2017年1-3月期GDP成長率(前期比年率)は0.7%から1.2%へ上方修正されました。4-6月期については、(市場予想を下回った6月2日の雇用統計も踏まえ算出された)アトランタ連銀のGDP推計値(GDP Now)は現状3.4%です。もしも「1-3月期1.2%、4-6月期3.4%」であれば、FRBが「米国景気の上振れリスク」を警戒するのも納得できます。しかも、集計期間が4月上旬から5月下旬で、4-6月期入り後を見極める手がかりとなるベージュ・ブック(地区連銀経済報告)でも、景気減速を示唆する記述は見当たりません。
長期金利の落ち着き等も株価にプラス材料
前回の利上げ局面(2004-2006年)では、FRBは2年間で17回利上げしました(各回0.25%ポイントずつ)。しかし今回は、FRBは「2017年、2018年は各3回ずつ」と示唆し、かなり慎重な利上げ姿勢です。FRBの慎重な利上げ姿勢や、トランプ・ラリーが終わり、落ち着きを取り戻した長期金利なども、米国株価にはプラス材料と考えられます。
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