ドル高スピードの調整弁となり始めた欧州情勢

2017/03/24

 

仏大統領選を楽観視する見方やECB緩和縮小観測等でドル高が抑制される局面が増えそうです。

初秋以降へのトランプ・ラリー先送り観測

米国株価(NYダウ)は、トランプ・ラリー(株高、金利上昇、ドル高)が始まった昨年11月以来、初めて前日比-1%超下落し(3月21日)、その翌日(3月22日)はほぼ前日終値並みで下げ止まりました。米国下院でのオバマ・ケア(医療保険制度改革法)代替法案の採決を控え、法案通過の難航を見越した市場のポジション調整的な動きのようです。市場は「これで難航するのであれば、まして(昨秋のトランプ・ラリーの原動力となった)大規模な減税策の法案成立にはかなり時間を要する」として、しびれを切らし始めたようです。「税制改革案を8月の議会休会入りまでに成立させるのはかなり野心的」(ムニューシン財務長官)との発言もあり、“失速”気味のトランプ・ラリーが再び勢いを取り戻すのは、早くても初秋以降となりそうです。

明るさを増す欧州情勢

昨年11月以降、1ドル=103円付近から加速したドル高のスピードは、最近、トランプ・ラリーの“失速”に伴ってスピード・ダウンが目立ちます。加えて、明るさを増しつつある欧州情勢がユーロの上昇圧力となり始めており、外為市場で規模の大きいユーロ/ドル取引を通じ「ドル高のスピード調整弁」として重みを増しつつあることも要因と考えられます。

フランス大統領選を楽観視する市場

オランダ下院選挙、フランス大統領選など2017年中の欧州各国での一連の国政選挙を、市場はリスク要因として警戒しています。前哨戦となったオランダ下院選挙(3月15日)では、現職のルッテ首相率いる与党・自由民主党(VVD)が第1党を維持しました。EU離脱を唱える排他的な極右・自由党(PVV)が予想されたほど票を獲得しなかった安堵感がユーロの下支え要因となりました。

これを受け、フランス大統領選で「極右政党が躍進する」との警戒感も薄れつつあります。ユーロ離脱を唱える極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首は「第一回投票(4月23日)は勝ち残っても、上位2名が争う決戦投票(5月7日)での勝算はかなり低い」と市場は比較的冷静です。決選投票の得票率は「中道系独立候補のマクロン前経済相は概ね60%前後、ルペン党首は概ね40%前後」との見通しを複数の世論調査会社が公表しており、現時点では大きな差がついているからです。候補者によるテレビ討論会(3月20日)で「マクロン前経済相が最も説得力のある議論を展開した」との調査結果が出たことも、ユーロの下支え要因となっています。

これまでルペン党首の極右・国民戦線は、「移民に雇用も奪われるのではないか」との国民の不安を追い風に、勢力を拡大してきた面があります。このところフランス国内経済が明るさを増しつつあることは、ルペン党首にとっては逆風と考えられます。失業率は、なお高いものの、すでに低下傾向に転じています。消費者信頼感指数は、過去約9年間で最も高く、家計の「失業への懸念」は大きく後退しています(図表参照)。

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ECBの緩和縮小観測

こうしたユーロ圏景気の拡大を背景に、「ECB(欧州中央銀行)は年内にも利上げに踏み切る」との観測がユーロ高の要因となり始めています。3月のECB理事会では「今年12月の量的緩和策の終了前に利上げに踏み切るべきか議論された」との観測報道が流れました。これを追認するようなECB理事会メンバーの発言「ECBは(中銀預金金利の)利上げを、現行の債券買入れプログラム終了の前にするか、後にするか今後決定する」(ノボトニー・オーストリア中銀総裁)も報じられ(3月16日)、欧州短期金融市場では「12月のECB利上げ確率80%」を織り込んだ取引が行われているようです。トランプ・ラリーが再燃するまでの間、当面は、ユーロ高がドル高を抑制する要因として意識される局面が増えそうです。

明治安田アセットマネジメント株式会社
明治安田アセット/ストラテジストの眼   明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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