欧州株価、1年半続いた下落トレンド終焉─世界経済を楽観

 

ECBの慎重なテーパリング(資産買入れ縮小)開始姿勢等も欧州株価に追い風とみています。

株価下落トレンドを上抜け

  欧州株価(STOXX600種指数)は、チャートをみますと昨年4月から約1年半続いた下落トレンドの上値抵抗線を上抜けし、上昇局面に入ったようです(図表1)。より長めのチャートでは、欧州株価はリーマンショック以降、右肩上がりの上昇トレンドが続いています(図表2)。

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  (1)「イタリア発のリスク要因」と市場が警戒した国民投票(12月4日)で、反EU(欧州連合)勢力の政権奪取を容易にする憲法改正案が否決された安堵感や、欧州銀行セクターで最も脆弱なイタリア大手行の資本基盤が補強されるとの観測(コラム参照)で市場心理が改善したことに加え、(2)トランプ新政権発足による米国経済の「低成長」脱却期待や、GDP(国内総生産)世界第二位の中国の過剰生産能力削減の進展観測等による「中国景気が減速期から安定期に入る」との期待で、世界経済の先行きに市場が楽観的になったこと等が株価上昇の要因となっています。

  さらに(3)欧州景気の先行きに自信を深めたECB(欧州中央銀行)が、量的金融緩和策の資産買入れ規模の縮小(テーパリング)を市場に配慮する形で決定(12月8日)し、金融政策の正常化を慎重に進める姿勢を示したことも欧州株価の上昇要因となっています。

ECBの慎重なテーパリング開始

  ECB理事会は、資産買入れ額の減額(月額800億ユーロ→2017年4月から同600億ユーロ)と買入れ期間の9ヵ月延長(2017年12月迄)とを同時に決定しました。ドラギECB総裁は「テーパリングではない」と否定し、長期金利の上昇を牽制しました。しかし、「資産買入れ額の減額」であることに変わりはなく、市場は「事実上のテーパリング開始」と受け止めました。その上で「同時に買入れ期間を延長する慎重なECBの姿勢により、(テーパリング開始に伴う)長期金利の急上昇は回避される」と市場は好感しました。景気拡大に伴う緩やかな金利上昇であれば、株価にはむしろプラスだからです。今回のテーパリング開始は「欧州景気の先行きにECBが自信を深めた」ことを意味するため、企業業績のさらなる改善も意識されやすくなったとみています。

  またECBの決定は、欧州銀行株にも追い風です。金融政策の正常化に向けた「イールドカーブ(年限別利回り曲線)のスティープニング(傾斜)化への布石」と市場に受け止められ、欧州債券市場では指標となるドイツの短期金利(2年ゾーン)が低下する一方、長期金利(10年ゾーン)は上昇しました。短期の預金金利と長期の貸出金利との差の利ザヤが、銀行業の収益の源泉です。このため「ECBの決定は欧州銀行セクターの収益下支え要因」とも受け止められました。

コラム 発生しにくくなった欧州銀行の信用不安

  欧州株価にマイナス要因となってきた材料の一つは、本年初の欧州株価急落を増幅した形のイタリア大手行のモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(以下、モンテパスキ)や経営再建中のドイツ銀行等の不安定な株価でした。その後、各行とも配当見送りや増資等を通じた資本基盤の補強が進みつつあります。このため、格付けに準じる信用力の指標であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)スプレッドをみますと、モンテパスキは本年初には700bps超でしたが、現状400bps台にとどまっています。ドイツ銀行も、本年初は200bps台半ばまでCDSスプレッドは拡大しましたが、最近では200bps付近まで縮小しています。CDS市場では、本年初と比べ「欧州銀行の信用不安は発生しにくくなった」とみられていることが分かります。

 

明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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