日本株・ドル買い場到来、トランプ政権に円安を止める手段はない
【ストラテジーブレティン(181号)】
(1) 市場は好景気・高収益・潤沢貯蓄・低金利環境を無視できない
新関:武者リサーチはアベノミクス相場第二弾が始まったと主張していますが、そのスケールはどの程度が想定されますか?
武者:年末日経平均25,000円、来年末30,000円が視野に。ドル円レートは、年末125~130円、来年末130~135円が視野に。特に日本株式はドル円レートとの連動性が強く、大きなドル高環境が整っていることが最大の好材料。あとで詳しく述べるが、トランプ政権にドル高円安を止める手段はない、と考えられる。
新関:そのような強気相場展望の根拠を教えてください。
武者:最大の理由は世界的な3条件。①好景気・高収益、②低金利(=潤沢貯蓄)が続く上に、③インフレリスクが小さいので各国の金融政策は依然として緩和的であること。行き場を失った投資資金は高騰を続ける株式に流入せざるを得ない。だが、伝説的ヘッジファンドマネジャー(例えばポール・チューダー氏やジョージ・ソロス氏、ジム・ロジャース氏、ビル・グロス氏)は、おしなべて極めて警戒的でリスクテイクに相当慎重と見られる。あたかもファンダメンタルズ①~③を信じることができず、買わない口実を探し、地政学リスクを槍玉に挙げている。しかし実際は、恐れられていたBrexit やトランプ当選は良い買い場であった。ポピュリストは当選すれば変身せざるを得ない。ギリシャのチプラス氏、トランプ氏は好例。どの候補者も当選した後は底流で進行する好リスクテイク環境を壊すような政策は打ち出せない。FRB批判をしていたトランプ氏が手のひらを返して低金利継続を求めたことはよい例である。フランス大統領でマクロン氏が当選し北朝鮮では武力衝突の可能性が低下したことで、市場はいよいよ、①好景気・高利潤、②低金利・潤沢資金、③市場フレンドリーの金融政策、というファンダメンタルズに注目せざるを得ないだろう。
新関:あたかもヘッジファンドで多数派を形成している悲観論者は、好調なファンダメンタルズをあえて無視しているようですね。
武者:そのとおり。世界同時好況は一層明確となるだろう。時代遅れの信念を捨てて、ファンダメンタルズに忠実になるべき。最大の鍵は米国景気拡大の持続性。FRBも言っているように、3月の景気指標の軟化は一過性のもの。①3月以降の米国景気指標の軟化(3月雇用増加数の鈍化、小売売上前月比低下、鉱工業生産指数製造業前月比低下、住宅着工前月比低下など)、②季節調整上の統計の癖により1四半期のGDP伸び率が0.7%と低下したこと、③帰属家賃の上昇率低下、通信やアパレルの影響で3月のCPIの伸びが鈍化(コアCPIは過去1年間の前年比2.2%から2.0%へ)、等はいずれも景気の転換というよりはノイズ、というのがエコノミストのコンセンサス。早晩立ち直っていくだろう。よって米国長期金利の2.6%~2.1%への低下急低下も一過性。昨年11月以来のトランプラリー(株高、金利上昇、ドル高)は再現され、一旦解消されたトランプトレードも再構築されるだろう。
新関:確かにIMFが世界経済見通しを上方修正するなど、楽観論が広がっています。しかし、懸念は全くないのですか?
武者:中国の金融引き締めで金融関連指標の悪化(株価下落、社債金利上昇、オーバーナイト金利上昇、企業破たんの増加)と鉄鉱石などの商品市況の低下が起きている。これは秋の党大会前のガス抜きとみられ深刻化はしないだろう。米国では銀行貸し出しが急低下している。投資意欲の後退と懸念する人がいるが、それは単に企業の資金調達の借り入れから債券発行へのシフトと考えるべきではないか。金利上昇に企業が対応している表れであり心配ない。米国企業は金利が低いうちに債券発行により低借り入れコストを固定化しようとしているのである。