9年ぶりの米利上げに見る二つの風景
【ストラテジーブレティン(152号)】
(1) 明-米国、米国で見られる新時代の萌芽
労働と資本の余剰、顕著に減少
2006年以来9年ぶりの米国の利上げは、米国経済がリーマン・ショックの後遺症を完全に払しょくした自信の表れと言える。リーマン・ショック後の大不況の困難は、2000年以降のIT革命の進行による生産性の上昇により生まれた余剰労働力、余剰資本が2007年まで建設部門(=バブル産業)に吸収されていたものが、バブルの崩壊により一気に顕在化し、戦後最大の失業・賃金停滞とカネ余り・低金利を引き起したことにある。
(*カネ余り・低金利の原因は各国中央銀行による量的金融緩和であるとする見解が多くみられるが、それは見当違いであろう。量的金融緩和がもし打ち出されなかったら、各国の経済不況は一段と深刻化し、資本はリスク回避を強めて安全資産である現金・国債に集中し、更なる金利低下をもたらしたであろう。低金利は量的金融緩和があろうとなかろうと起こっていた事であり、それはより深い歴史的現実-IT革命による資本余剰―に起因していると言える。)
この労働力と資本の余剰が、辛抱強い量的金融緩和によりほぼ解消しつつある。図表1は失業率推移であるが2009年のピーク10.0%から直近では5.0%まで低下した。また図表2により米国企業のフリーキャッシュフローを見ると、2000年以降の大幅な余剰がほぼなくなっている。設備投資額の増加が好調なキャッシュフローに追いついてきたためである。さらにようやく労働賃金が上昇し始め(図表3、4)、2000年以降急低下していた労働分配率が底入れから上昇に転じ始めた(図表5)。この労働分配率の低下こそ、企業収益を歴史的水準に押し上げた(図表6)主因であり、企業の過剰貯蓄の根本原因でもあった。