米国に見る資本主義体制の危機とトランプ政権
【ストラテジーブレティン(375号)】
(1) 何が問題なのか
資本主義体制が問われている。空前の技術革命が進行する一方、分断と格差も顕著である。一握りのテクノビリオネアが台頭しているが、労働者はインフレによる実質所得目減りに直面し生活は楽ではない。新興国の一部では統治が破綻し国民が流民化し先進国の移民問題を引き起こしている。他方では既存の世界秩序の改変を狙う専制国家群が存在感を強めている。市場経済のいいとこ取りをした中国がフランケンシュタイン化し、国内のバブル崩壊と経済悪化を監視社会の強化で乗り切りつつ世界覇権をうかがっている。この新しい現実に政治はどう向き合うのか、伝統的リベラリズムは行き詰まり、現実を直視したリアリズムでの対応が不可欠になっている。米国でのトランプ大統領の再選と欧州での「極右」政党の台頭など、はそうした流れの中で理解されるべきであろう。
資本主義が終焉に近づいている、との観測もなされているが性急な結論は避けるべきだろう。今勢いを増しているトランプ大統領や各国の「極右(急伸右翼)」はむしろ資本主義の擁護者、改革者として登場している面がある。トランプ政権の理念を忖度すれば、「資本主義が正義、資本主義なき民主主義は虚構」なのではないか。米国資本主義は二つの脅威、外の旧共産圏と内なる経済合理性をむしばむリベラル、に直面している。対中のためには国家介入による国際分業の再構築が必要、内なる敵に対しては、勤労を問題解決から遠ざける悪習(=労働を悪、苦役ととらえる思想)、既得権益と規制に胡坐をかいた官僚主義、DEI/PC/ESGsなどの思想の打破が必要だと主張している。
資本主義の本質的課題(根本矛盾)である所得フローの循環再構築、つまり企業の過剰貯蓄を如何に還流させるかに関して、先の米大統領選では増税・弱者支援の民主党ハリス陣営対、減税・リスクテイカー支援・市場活用と言う共和党トランプ陣営と見事に対抗軸が現れ、トランプ氏の勝利によって米国の路線は定まった。トランプ氏はテクノビリオネアであるマスク氏と連携して、究極の自由主義リバタリアニズムを遂行しようとしている。最先端の技術実装のためには既得権益、規制の撤廃が必須との考えからである。これらの挑戦は野心的ではあるが、米国資本主義を再生・強化するためには必須であろう。
以下では米国資本主義の歴史と現状を概観して、将来展望の一助としたい。
(2) マルクス、ホブソンが指摘した資本主義の根源的矛盾と展開
そもそも技術発展がなければ経済の仕組みは変わらない。灌漑農業と言う数千年来変わらない技術の上で、何百年、何千年もの間「アジア的専制国家」は存続してきた。しかし一度技術発展に弾みがつくと経済にダイナミズムが与えられやがては体制を不安定にし、崩壊に導く。この技術発展が動力となり大きな変化を誘引するとの想定を経済学の基底に据えたのが、K・マルクスとA・ホブソンであった。
マルクス(1818-1883)は資本主義が崩壊に至る必然性の研究に生涯をかけたが、それは資本主義に内在する矛盾の発現を契機とするものであった。つまり技術の発展(=労働生産性上昇)が資本の有機的構成の高度化(=資本投入に占める労働費の割合の低下)を引き起こし、利潤率が傾向的に低下する、と言うものである。
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