トランプ大統領の2025年、バブルへGO
~米国資本主義は進化し続けている~
【ストラテジーブレティン(368号)】
(1)トランプ氏勝利の意味するもの
トランプ氏が率いる共和党は大統領、上下両院を抑えるトリプルレッドを確保した模様である。2016年に泡沫候補として登場したトランプ氏が、大半のメディアと専門家の予想を覆してクリントン氏を僅差で破ったことは驚きであった。その8年後に一段と毀誉褒貶が強まったトランプ氏が圧勝したことは、何を物語っているのだろうか。
これを思想上の対立における保守の勝利とのみ見るのではなく、米国資本主義の進化の一過程と見る視点が必要なのではないか。
2024年ノーベル経済学賞は、歴史と制度分析を経済学の領域に取り込んだことにより、ダロン・アセモグルMIT教授等3名が受賞した。アセモグル教授は、「私的財産の保護、機会の平等、自由な市場経済などの政治経済の仕組みを持つ国こそがイノベーションを生み、繁栄を実現できる。権威主義的な政治制度は創造的破壊の芽を摘むため、長期的な成長には結びつかない。法の支配が貧弱な社会、国民を搾取する制度は支配者に特権を与え、人々を隷属させ続ける。一見改革に見える変化が起きることもあるが、結局支配者が入れ替わるだけで停滞が続く」と主張している。そのためにこそ、機会均等を維持する規制緩和と既得権排除が必須であるという意見である。氏の所説に従えば、米国固有のDNAとたゆまぬ改革により米国資本主義というエコシステムが進化してきたのである。規制緩和を進め既得権益化を排除するというトランプ氏やマスク氏の主張は、米国の資本主義の源流にある「反知性主義(=反権威主義と言うほうが分かりやすい)」(森本あんり氏)の再登場と言う側面があるとも見える。トランプ氏やイーロン・マスク氏が尊敬する第7代大統領ジャクソン(1829-1837)は開拓者精神と自立精神に満ちた反知性(=権威)主義の体現者である。トランプ氏、マスク氏が共有するスローガン「多数意見は、勇気ある一人が創る」はジャクソン大統領の名言でもある。
以上のような脈絡から考えればトランプ氏の政策が功を奏する可能性も視野に入れるべきであろう。トランプ氏が勝利宣言で述べた「米国の黄金時代が到来する」という言葉を、大言壮語と片付けることはできない。
(2)1995年との類似性、高金利とアニマルスピリット
選挙で圧倒的信任を獲得し強力な実行力を得たトランプ氏は、規制緩和と既得権排除でAI等の新産業革命の土壌を耕すかもしれない。そのような期待が高まれば、2025年は大きな上げ潮(アップスウィング)の年になる。過去を振り返ると今日と類似しているのが1995年である。大幅な利上げの後、最初に利下げがなされたのが1995年であった。1995年から1996年12月の根拠なき熱狂(グリーンスパン議長)を経て、2000年のITバブルに向かう局面と現在とは、多くの点で類似している。SP500指数は最初の利下げが実施された1995年7月から1年間で13%、2年間で70%、3年間で99%と言う大幅な値上りになった。当時と現在とは、①利上げ終了後に高い実質金利が維持されたこと、②長期金利も抑制されイールドカーブフラット化が長期化したこと、③ドル高が続いたこと、④技術革新(当時はインターネット革命、今はAI革命)の進行が旺盛な投資をけん引している事、等が類似している。