「円安悪玉論」だけは看過できない
~日本経済復活の腰を折るな~
【ストラテジーブレティン(358号)】
円安進行が止まらない。消費者や中小企業主体の日本商工会議所などの経済団体、少なくないエコノミスト、経済学者などからの悲鳴と批判が巻き起こっている。この「円安悪玉論」を是と見るか非と見るべきか。この問題をおろそかにできないのは、それが政策選択と日本の国益に強く結びついているからである。
円安は購買者から供給者への所得移転、だが一過性
為替論議は極めて単純、円安は①輸出する人(=円を受け取る人・金を稼ぐ人)にプラスに、②輸入する人(=円を支払う人、金を使う人)にはマイナスに、と相反する作用があることが全てである。しかしその対立が事態を紛糾させる。円安批判は後者の立場に立って展開される。円安が困るのは輸入物価が上昇し国民の実質所得を奪うからである。2022年以降、ウクライナ戦争に伴うエネルギー価格の上昇、コロナパンデミックによって引き起こされた供給網の寸断により世界的なインフレが起きたが、日本では同時に進行した円安が物価上昇をさらに押し上げた。2%のインフレターゲットを目標としてきた政府・日銀にとって一時的にもせよ目標を達成できたのだが、賃金上昇が伴っていなかったために、労働者の実質賃金は大きく目減りし、消費を圧迫した。また海外生産や輸入品に依存している企業は輸入コストが上昇し収益が圧迫された。しかしこれらは短期・一過性のマイナスである。物価高は円安が止まり前年比の変化がゼロになれば消えていく
見えにくい円安のメリット
他方前者の側に立つ円安メリットは、緩やかにしか現れずまた一様ではない。すべての企業がドル建て輸出をしているだけなら、円安メリットは為替益により円換算の売上額が増え直ちに利益増加に結びつく。ただし輸出企業が円安になった分だけドル建て輸出価格の引き下げる場合には、円安メリットは値下げによるシェアの増加(=売上数量の増加)が実現するまで現れない。