日本半導体産業復活をけん引する「天の時、地の利、人の和」~地政学だけではない~
【ストラテジーブレティン(351号)】
絶望からの生還、日本半導体産業
数年前まで日本の半導体産業は世界のマイナープレーヤーに過ぎないと、誰もが考えていた。「技術者はいない、先端技術ははるか前に失われた、半導体を支える需要もない、半導体企業のチャレンジ精神もない」、無いないづくしであった。しかし今、誰もが夢にも思っていなかった大投資ブームが起きている。その牽引車は半導体の受託生産で世界最大手の台湾企業TSMCによる熊本工場の始動である。2月に第1工場が完成したのに続いて、6ナノメートルの先端半導体を生産する第2工場の建設も決まり、第3工場も視野に入っている。これまでに決まった投資総額は3兆4000億円、日本政府は1兆2000億円の補助を約束している。熊本県ではこの投資ラッシュにより土地は値上がりし、人不足から賃金は上昇、交通渋滞が起きるなどブーム状態である。
更に北海道千歳では先端半導体の国産化を目指すラビダスの工場建設が始まり、キオクシア・ウェスタンデジタル(北上・四日市)、マイクロンテクノロジー(広島)、サムスン(横浜)等、すでに4兆円の政府補助が決められている。この投資規模と迅速さは、米国、中国、韓国、ドイツなど各国政府が進めている半導体産業支援の中でも先頭を走っている。国の支援を追い風に、半導体メーカーだけでなく、装置メーカー、材料メーカーなど関連各社が投資を拡大し産業連鎖の好循環が起きつつある。
米中対立を原因とする政府主導プロジェクトを世論が歓迎
この半導体投資ブームは周知のようにように、米中冷戦という地政学環境の変化が起点となっている。世界サプライチェーンからの中国排除という米国の筋書きに従い、日本産業復活が進行していると言うことである。東アジアにおけるハイテク製造業のハブは、30年前に日本から中国、韓国、台湾に移った。これが日本に戻ってくるというイメージがほぼ確かになっている。