安倍派更迭、アベノミクスはどうなるのか
【ストラテジーブレティン(346号)】
突如のミニ政変
米国で12月13日NYダウが史上最高値を更新する中、突如日本で政変が起きた。パーティ券販売収入のキックバックが政治資金として収支報告書に記載されていなかった。金額は安倍派合計で5年間数億円と言う少額、脱税容疑としては少額すぎる。また贈収賄、選挙買収等悪質なものではない。裏金には違いないが犯罪として立件に値するか微妙である。また安倍派以外にも政治資金不記載は蔓延しているともうわさされている。検察は捜査員50人投入という過去の大スキャンダル並みの捜査体制を取っている。
事実関係が未だ確定していない中で、岸田首相は安倍派の閣僚、副大臣、自民党執行部を軒並み更迭、安部派外しに舵をきった。最大派閥安倍派の更迭は今までの政策論争の中枢にいた安倍派つぶしと見られても仕方がない。その背景に安倍元首相が執拗に批判してきた財務省の反撃があるとも、噂されている。
この政変が政策の転換、岸田氏が基本的に継承してきたアベノミクスの修正に結び付くのか、が問われる。アベノミクスは大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の3本柱であるが、この第一の矢、第二の矢に変化が出てくるかもしれない、デフレ脱却、成長軌道回復が確かになった後での修正であれば良いが、性急な政策転換の可能性が出てきたとすればそれは要注意、株価にもネガティブかもしれない。
積極財政から財政規律重視に転換するのか
想定される最も大きな変化は財政政策であろう。亡き安倍氏の遺志を継いで積極財政論の先鋒を担ったのは安倍派の萩生田政調会長、世耕自民党参院幹事長等であった。防衛予算をGDP比2に押し上げるにあたっての財源として国債発行か、増税か大きく見解が分かれた。24年度の与党税制改正大綱には防衛費増額に伴う増税は明記されない見通しであるが、次年度以降、財政規律が巻き返す可能性が高まった。アベノミクスから財政規律・増税路線への転換が起こるとすれば、それは日本経済と株式にとって一大懸念要因となる。
岸田首相の立ち位置は微妙である。「増税眼鏡」と揶揄された反発からか、一気に減税路線を打ち出した。「成長の成果である税収増を国民に適切に還元すべきだ、1人あたり所得税3万円と住民税1万円のあわせて4万円を差し引く定額減税を行う。住民税の非課税世帯には7万円を給付する」との方針を決定した。以下のような批判はあるが、やらないよりましである。①6月では遅い、その時にはすでにインフレは低下している、②恒久減税ではないので次年度には増税になる、③大幅税収増期待できるので、恒久減税に踏み込むべき、等である。2021年以降名目経済成長率が2程度であった時に相当の税収増が続いてきた。第一生命経済研究所の永濱利廣氏によると税収の予算比上ぶれは、2021年度9.6兆円(名目GDP2.1%増)、2022年度5.9兆ドル(名目GDP2.0%増)であった(図表1)。2023年度当初予算による税収は2022年度実績71兆円に対して、69兆円と減少する想定である。しかし23年度の名目経済成長率は5と30年ぶりの高成長が確実視されており、税収は予算比で10兆円規模の上振れもあり得る情勢である。それを原資とすれば食料品消費税ゼロなどの大規模な需要刺激策も可能な事情にある。