突出する日本株高、米中対決と超円安が流れを変えた

【ストラテジーブレティン(333号)】

日本株が世界株式の中心に躍り出た。武者リサーチは「2023年は日本の大転換の年、日本が世界投資の中心なる年」と主張してきたが、それは今や明白である。日本株式は世界最高のパフォーマンスになっている。年初来で見れば、日経平均は+22%と米国(SP500)+11%、ドイツ(DAX)+14%、韓国(KOSPI)+17%を抑えてトップの成績である。コロナ直前の2020年1月からの上昇率も+34%とやはり世界主要市場で最高の上昇となっている。

この日本株優位は、もっぱら抜き差しならなくなった米中対立と円安の定着に端を発している。米中対立が起きず、円高時代が続いていたとすれば、日本の経済低迷は継続し、日本株の居所は今とは全く違っていたであろう。しかし、米国では左右両極、共和党・民主党を問わず、中国を最大の脅威とする挙国一致の国論が成立し、対中抑止が最重要の国家アジェンダとなった。このことが日本の命運を変えたといっていい。

日米半導体協力からすべての流れが始まった
トランプ政権が開始した対中抑止策は、2021年4月の菅バイデン会談での日米共同声明で初動が与えられ、対中デカップブリング、日米半導体協力から今日に至る流れがつくられてきた。菅バイデン会談の一か月後にトリプルA(甘利、安部、麻生)3氏が主宰する自民党半導体議連が設立され、10兆円規模の投資を推進することが決められた。2021年10月には世界最強半導体メーカーTSMCが投資額1兆円の熊本工場建設を決め、その完成も待たずに第二期の建設も内定している。また官民出資の最先端半導体製造会社ラピダスが北海道千歳で累計5兆円規模の投資を推進している。広島サミットに関連してTSMC、インテル、サムスン、マイクロンテクノロジーなど世界大手半導体企業の首脳が日本に集結し、日本での半導体投資を相次いで打ち出した。熊本では地価や半導体関連技術者の給与が高騰するなど、ブーム状態が起こっている。この動きは全国に広がっていくだろう。日本は半導体材料で世界シェア56%、半導体製造装置で32%と圧倒的シェアを持っており、中国依存から脱却するためには、最重要拠点である。特にこれからの技術革新のカギとなる後工程(組み立て)で日本の技術蓄積は世界的水準にあり、各半導体メーカーが日本詣でを始めたようである。一度は完敗した日本のハイテク産業集積は大きく再興に向けて走りだした。

日本浮上を決定づけた米国の円安容認姿勢
このハイテクでの対中デカップリングと軌を一にして、円が急落した。2021年には100円台であったドル円は2022年央には150円へと、3割以上の急落となった。米国による日本叩きの手段として、日本円は長らく異常に強い時代が続いた。1990年代から2010年頃まで、日本の強い産業競争力を抑制するため超円高が定着し、日本円は購買力平価を3割以上上回り続けたが、その結果日本は世界一の高コスト国となり産業競争力が著しく弱体化した。製造業は国内工場を閉鎖し、雇用を削減し海外に拠点を移した。銀行は日本の潤沢な貯蓄を海外融資に振り向けた。円高により人も金も工場もビジネス機会も日本を離れ、日本経済に停滞が残った。日本のハイテク産業は韓国、台湾、中国に完敗した。

安いニッポンに世界需要が殺到する
それがこの円安の結果、日本は突如、世界的低物価国になったのである。2023年時点での円の購買力平価は95円、それに対して実際の為替レートは139円なので、円は実力よりも4割近く割安になった。円高により日本から離れた世界の需要が、円安により急速に日本に集中しようとしている。米国による円安容認がこの流れの中心にあることは、様々な状況証拠から明らかである。

2023年の日本経済はバブル崩壊後、最も明るい数量景気の年となるだろう。Jカーブ効果により円安初期の価格面でのマイナス場面が終わり、数量増の乗数効果が表れる時期に入る。円安で日本の価格競争力が強まり、工場の稼働率が高まる。また割高になった輸入品の国内生産代替が起きる。政策投資銀行、日銀短観、日経新聞など各種の設備投資調査では、すでに2022年において設備投資が過去最高レベルの伸びとなっている。円安はまた、インバウンドを増加させ、外国人観光客が日本の津々浦々の地方内需を刺激する。安いニッポンに向かって、様々なチャンネルを通じて世界の需要が集中し、国内景気を活性化し始めている。

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