ウクライナ戦争とエネルギー安全保障

2022/03/16

【ストラテジーブレティン(301号)】

見込み違いのプーチン氏、勝利の可能性は無くなった
軍事、地政学の専門家ではないが、一定の論点整理を試みたい。電光石火の攻撃により緒戦で勝利し、ウクライナ側に①非武装中立化、②クリミア半島の主権譲渡、等を飲ませるというプーチン氏の目論見は完全に失敗した。傀儡政権の樹立も今では難しくなっている。

プーチン氏の見込み違いは、敵を甘く見たことに尽きる。①ウクライナ国民の抵抗、②国際民主社会の結束(EUおよび非同盟欧州)、③米国の強靭さに対する軽視である。米国についてプーチン氏は、アフガン撤兵の混迷でバイデン政権の無能さが露呈された、また米国国内にはロシアの要求(NATO東進拒否)には合理性があると考える人々、トランプ前大統領が掲げたアメリカファーストと孤立主義の信奉者がおり、ウクライナへの介入はないと踏んだのだ。

チキンレースが始まった。プーチン氏は二回目の見込み違いをするだろう。緒戦でもたついた分を更なる強硬策で突破し、ウクライナ側の屈服を勝ち取ろうとするだろう。プーチン氏のdouble down(2倍賭け)戦略である。原発攻撃はdouble downそのものかもしれない。キエフを巡って市街戦が始まり、流血の惨事が一気に拡大しそうである。生物兵器、化学兵器の使用が始まるかもしれない。第三次世界大戦へのエスカレートを回避したいバイデン政権との肝試しが始まった。バイデン氏は「ウクライナ国内でロシア軍と対戦しない」と明言しているが、ウクライナ国内の残虐にいつまで耐えられるだろうか。バイデン政権は 1 インチたりともNATO領域を侵させないことをレッドラインとしているが、ウクライナのジェノサイドをいつまでも見逃すことはできないはずである。

とうとうWSJはNATO参戦準備を提起
米国・NATOがプーチンの暴虐に耐えられないのは、より強力な現状変更勢力、台湾を自国領土として取り返すことを国是としている中国が控えているからである。ここで侵略が正当化される前例が作られれば、台湾併合を狙う中国に大きなインセンティブを与えることになる。ウクライナ戦争は将来予想される台湾有事の格好の土台になるはずである。WSJはNATO参戦準備を提起し始めた(3月14日社説)。

よってウクライナの敗北はあり得ないだろう。結局は、プーチン氏の野望に相応の懲罰が課されることになるだろう。ロシアは西側による経済制裁、頼みの綱であるエネルギーも取り上げられ、大ロシア主義は破綻、発展途上貧国として長期停滞を余儀なくされるだろう。

踏み絵を踏まされる中国、窮地に
米国とNATOは中国に踏み絵を迫っている。ロシア産天然ガスの購入、軍事物資支援などを通して経済支援を行い西側の制裁に対する抜け道を提供することが疑われているが、それへの対応次第では中国が孤立しかねない。中国の 1~2 月のロシアとの貿易総額は前年同期比38.5%増と急増し、中国全体の貿易総額の伸び率(15.9%増)を大きく上回った。

中国は国連総会でのロシア非難決議に棄権した。また欧米の首脳がボイコットした北京オリンピック開幕式に訪中したプーチン氏との間で、「一致してアメリカに対抗する姿勢を鮮明にした共同声明(2月4日)」(NHK)を発表している。曰く「中ロの国家間関係は冷戦時代の政治軍事同盟より上位のものであることを両国は再確認する。両国間の友情は無限であり」、「両国の協力にタブーも上限もない」、さらに「NATOのさらなる拡大に反対する」「中国側は、ロシアが提案しているヨーロッパにおける長期的で法的拘束力のある安全保障の形成について共感し、支持する」また「「米国のインド太平洋戦略が地域の平和と安定に与える負

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