ファーウェイへの「Death Sentence (FT)」、その意味するもの
~ハイテク市場で予想される地殻変動~
【ストラテジーブレティン(259号)】
8月に入り米国は相次いで苛烈な対中ハイテク企業バッシング政策を打ち出した。①ファーウェイに対する半導体供給完全遮断、②中国・中国共産党を国際インターネットから完全に排除するクリーンネットワーク構想の提起、③動画掲載アプリTikTokの米国事業禁止、である。いずれも7月23日のポンペオスピーチで表明された中国敵視戦略遂行のために打ち出されたものであり、これまでとはレベルの違う対応である。
米国は中国・中国共産党を敵と定めた以上、それを破る対中戦略を確立しているのではないか。そうだとすると、目的達成のためには、①経済交渉と制裁、②産業・資財供給封鎖、③金融封鎖、④Hot Warの4段階が考えられる。これまでの①の経済貿易戦争の交渉では埒が明かず短期的効果は望めない。よって②の産業・資財封鎖により打撃を与えようとしている。あたかも現代の石油である半導体供給遮断・ネットワーク遮断はそれが額面通り実施されるとすれば、甚大なダメージを中国に与えるのではないか。ファーウェイの破綻、BATの衰弱化などが起きた時、習近平政権はどう反応するだろうか。③金融封鎖、④Hot Warという手段に訴えるのは、②の効果が見えた後であろう。
(1) ファーウェイへのDeath Sentence (FT)
ファーウェイへの半導体全面禁輸
8月17日、米国商務省はファーウェイに対する苛烈な新政策を打ち出した。ファイナンシャルタイムズ(FT)紙はこれを、Death Sentence(死刑宣告)と形容している(8月22日)。米国のソフトウェア、テクノロジーを使用して開発または生産されたすべて(米国内生産、海外生産を問わず)の半導体・電子部品へのファーウェイによるアクセス(購買者として、中間業者として、エンドユーザーとして)を直ちに全面禁止するというもの(ライセンス取得が必要とは言っているが)。
5月15日に商務省は米国の製造装置や設計ソフトを使っている外国製半導体のファーウェイへの販売を禁止したが、それには軽減措置(米国製品の構成比が25%以下は対象外)や抜け道(迂回輸出)があり、猶予期間もあった。今回の措置は全ての製品に対して、迂回経路を遮断し、猶予期間無く即時に行うという激烈なものである。これまで避難手段と考えられてきた、例えばサムスン電子や台湾のメディアテックなどファーウェイにとっての代替的調達先からの購入、メモリなど汎用品の購入にも、米国政府の許可が必要になる(事実上禁止される)。
この措置がいかに唐突で苛烈なものであるかは、対中で政府と歩調を合わせてきた米国半導体協会(SIA)が「米国政府の突然のシフトに驚きと懸念を抱いている、センシティブでない製品の中国への販売は米国の経済力と安全保障にとって重要である」と表明したことから明らかである。ファーウェイは米国半導体企業にとって最大手のユーザーの一つである。それに配慮してファーウェイへの供給が、選択的に認められるとしても、それは限定的であろう。