金融の仕事
◆どこかの国の大統領は金さえ払えば他国の領土も買えると考えている。某芸能人は多額の和解金さえ払えば、過去の不祥事はなかったことにして芸能活動を続けても支障はないと思っている。世の中、金さえ払えば済むという考え方が蔓延しているように思う。
◆これも、ある意味、同根だろう。不祥事を起こした企業トップの責任の取り方だ。たいていの場合、報酬カットである。経営不振の日産自動車、元社員が強盗殺人未遂と放火の罪で起訴された野村證券、そして元行員が貸金庫から顧客の資産を盗んだ三菱UFJ銀行。野村證券の奥田社長、三菱UFJの半沢頭取の両者はそろって報酬を3カ月の間30%の減額とするそうだ。
◆同じ金融機関、同じ業界トップの企業がそろって同じ処分、責任の取り方だ。しかし、報酬を3カ月の間30%の減額というのは、3/12×30%=7.5%の減額に過ぎない。1割にも満たないのだ。しかも彼らは何億円もの報酬をもらっている。ちなみに24年3月期の半沢頭取の報酬は3億3000万円。報酬を減額と言っても、3億円以上受け取るのは確実だ。税引き後の手取りを考えれば、ほとんど変わりない。そんなものは、「金さえ払えば済む」どころか、「払っていない」のと同じである。
◆金融機関の信用を失墜させた、これらの事件が社会に与えた影響の大きさは計り知れない。さまざまなことが言われているが、重要なことはシンプルである。あらゆる商売の中で金融機関の仕事は直接、お金を取り扱う。人間の欲望や業のようなものを凝縮した存在であるお金と隣り合わせて仕事をしている。だからこそ、他の仕事に比べて何倍も強固な倫理観が求められる。そのいちばん重要な金融の仕事の基本を疎かにした結果が今回の事件の根底にあると思う。言葉が足りなかった。その仕事の基本を「叩き込む」ということを疎かにしたのである。
◆たしかに企業のコンプライアンスはうるさくなった。ただ、それもどこか儀礼的、形式的なもののように感じる。流行語大賞にも選ばれたドラマ「不適切にもほどがある」が突いたのは、そんな現代の職場の甘さであり矛盾だろう。昔は先輩に怒鳴られながら仕事を学んだものだ。そうした厳しさを忘れ、「ブラック」「パワハラ」との誹りを恐れるがあまり、「ホワイト」過ぎる職場になってしまっているのではないか。それが規律の緩みに影響しているような気がしてならない。
◆金融機関の仕事というのは絶対にたるんではダメである。それは「コンプライアンス」などという「言葉」だけの世界ではなく、まさに職業(プロ)意識を肝に銘じる必要がある。金がすべての仕事だが、だからこそ、金さえ払えばなんとなるとはいかない世界なのである。今回の事件でトップの会見を見ていても、そういった気概がまるで伝わって来ない。大丈夫か?同じ金融の世界に身を置くものとして非常に不安である。
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