デジタル課税という魔の手 ~激化する携帯電話マーケットのリスクを考える~

2018/12/21

中国の大手通信機器企業である華為技術(ファーウェイ、Huawei)問題が尾を引く中、一昨日のソフトバンク上場は同社の想定外に終わった。公開価格1,500円の約15パーセント安に当たる1,282円で取引を終えたためだ(※1)

そもそも携帯電話事業者を巡っては、NTTドコモとKDDI(au)、ソフトバンクがしのぎを削るマーケットであった中、楽天が新規参入を表明した。他にもいわゆる仮想移動体通信事業者(MVNO)と呼ばれる、新たな業者が参入を表明している。本稿は、こうした携帯電話事業マーケット、さらにはより抽象的に(デジタル)通信マーケットの今を検討し、その未来の行く末を考えるものである。

 

まず携帯電話事業マーケットのサイズを考えることとする。かつては一家に一台だった電話も、私用と仕事用、場合によっては私用が複数と、今や一人が複数台の電話を持つ時代になった。こうした背景を受け、事業者別契約数(大手3社の合計)は、直近3年間で増大する一方である(※2)。他方で、上述した様に新規参入者が増大したため、競争は激化している。

そのため、大手3社は契約者向けの会員コンテンツを充実させる方向で動いている。たとえばNTTドコモ(証券番号:9437)は、エイベックス通信放送やタワーレコードなどに出資し携帯電話契約者に楽曲・PVを配信している。巨大なマーケットでの競争激化は我々にとっては良質なサービスを安価に受けることができるため望ましいように思える。しかし、事態はそんなに簡単な話ではない。

まず総務省らによる、「通信=端末の完全分離」政策である。きっかけは去る8月に菅官房長官が「携帯電話料金は4割値下げの余地がある」旨を発言したことだった。先月26日に「モバイル市場の競争環境に関する研究会」(モバイル研究会)の第4回の会合を通じて総務省が通信料金と端末代金の完全な分離をキャリアに強く求める内容などを盛り込んだ、緊急提言案を公表している(※3)。多数報道がなされている以上、本件についてこれ以上詳しく述べることはしないが、いずれにせよ競争環境の激化は必至である。

他方で、多数の業者が参入し始めているものの、それを支える回線が決して増えているわけではないということだ。いわゆる「格安スマホ」を提供しているのが、最近参入を開始した仮想移動体通信事業者(MVNO)である。彼らがなぜ安く携帯電話機種を提供できるのか。それは大手業者から通信回線提供を受けているからである。

たとえば、ケイ・オプティコム(mineo)・日本通信(b-mobile・証券番号9424)・LINEモバイルはソフトバンク(証券番号9984)から回線の提供を受けている。ビッグローブ(BIGLOBEモバイル)、NTTコミュニケーションズ(OCNモバイルONE)および日本通信(b-mobile・証券番号9424)、トーンモバイル(TONE MOBILE)、楽天(楽天モバイル)、インターネットイニシアティブ(IIJmio・証券番号3774)、ケイ・オプティコム(mineo)、ケイ・オプティコム(mineo)はNTTドコモ(証券番号9437)から受けている。ビッグローブ(BIGLOBEモバイル)およびUQコミュニケーションズ、インターネットイニシアティブ(IIJmio・証券番号3774)、そしてケイ・オプティコム(mineo)はKDDI(au)から回線提供を受けている。

いずれの企業も基本的に複数の企業から回線提供を受けていることでリスク分散を図っているとはいえ、回線リスクが複数企業に影響を与えることは明らかだ。実際、先日6日に生じたソフトバンクの通信障害ではLINEモバイルがあおりを受けて通信不可能な状況に陥っている(※4)

これ以上に脅威と考えなければならないのが、今月頭にG20にて合意された、FAANGへのデジタル課税推進である。我が国の大手通信企業も充分にFAANGのような大手IT企業の一員なのである。実際にソフトバンク・グループ(証券番号:9984)は和製FANG株などともたはやされた時期があるのである(※5)

たとえば欧州連合(EU)の場合、以下のような条件を満たす企業は売上高の3パーセントの課税を受けるというデジタル・サービス税の導入を検討している:
―オンライン広告の販売

―ユーザー間の交流を可能にし、両者のモノやサービスの販売しやすくする仲介サービス

―ユーザーが提供した情報から創出されたデータの販売

我が国でも独自のデジタル課税が検討されている今、こうしたスキームが参照され類似した課税体制が導入されてもおかしくない。

携帯電話マーケットにおける競争が激化すればするほど、LTV増大のために携帯電話事業者はコンテンツ拡充に努めることとなる。そうすれば必然的にデジタル課税の対象になる危険性があるということだ。

FAANGへの課税という渦中に入り込めば入るほど、我が国にもその火の粉が降りかかってくるかもしれず、それは我が国の首を絞める可能性がある諸刃の剣であることを念頭に置く必要がある。

 

*より詳しい事情についてご関心がある方はこちらからご覧ください(※6)

 

※1 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39088300Y8A211C1000000/

※2 https://www.tca.or.jp/database/https://www.tca.or.jp/database/

※3 https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/1155170.html

※4 http://mobile-blog.line.me/archives/29909580.html

※5 https://jp.wsj.com/articles/SB12429545209182953424104583455701930414508

※6 https://www.mag2.com/m/0000228369.html

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所
原田武夫グローバルマクロ・レポート   株式会社原田武夫国際戦略情報研究所
トムソン・ロイターで配信され、国内外の機関投資家が続々と購読している「IISIAデイリー・レポート」の筆者・原田武夫がマーケットとそれを取り巻く国内外情勢と今とこれからを定量・定性分析に基づき鋭く提示します。
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