レールが世界を繋ぐ日 ~陸上輸送の発展によってこれから起きること~

2019/04/19

はじめに

今、鉄道業界が静かに盛り上がりを見せている。といっても我々が普段通勤通学に使うJRや地下鉄のことではない。ここではマクロな意味での大陸横断鉄道のことを指している。もちろんこれまでも鉄道が我々の日常生活といったミクロな面から交易の為のマクロな規模まで幅広く、かつ古くから活躍してきたことを読者もご存じのはずだ。

歴史を振り返ってみると16世紀に鉱山内で馬が引く車両が鉄道の元祖だといわれている。そして18世紀の産業革命を経て英国をはじめとして欧州で蒸気鉄道が発達していくことになる(※1)。今では世界中に欠かせない産業であり我々の足として存在するようになった。日本においても鉄道の歴史は決して浅くはない。1853年にロシアのプチャーチンが日本にやってきて鉄道の模型を我々日本人の祖先が見せつけられてきたのをきっかけに、日本でもその開発・研究が進み、1855年には田中久重が見事機関車を創り上げた(※2)。今でいえば東日本旅客鉄道(証券番号:9020(※3))がその典型だろう。そして明治時代には日本でも人々の足として鉄道が利用されるようになったというわけである。

なぜここで鉄道の話をするのかといえば、実はこの鉄道事業が世界のこれからを再び大きく担うことになると考えたからに他ならない。なぜならば昨今の最も主要な交通手段の1つとされている航空機と同業界を巡る事故・不祥事が頻発しているからだ。これから航空業界はどうなっていくのか、私が今まさに乗ろうとしているこの機体は本当に安全なのか。我々を不安にさせるニュースが次々と飛び込んできている。

たとえば本日(18日)時点までの最も大きな事件がボーイング社の737型機墜落するだ。今年はエチオピア航空に所属する機体も墜落事故を起こしており、昨年にもインドネシアでボーイングの機体が墜落する事故が発生し多くの命が失われることになってしまった(※4)ことは記憶に新しい。ボーイング社といえばエアバス社と並んで2大航空機メーカーといっても良いほどの存在であり、日本人でなくとも海外へのロング・フライトの際にはどちらかのメーカーの機体にほぼ間違いなく乗ることになるだろう。だからこそ今次のボーイング社製機体の事故は非常に衝撃的であると同時にその安全性について考えさせられるものである。

それだけではない。航空業界で問題となっている事案として乗務員による勤務中の飲酒が摘発されるケースが続けざまに報道されている(※5)のだ。しかもそれは他でもない日本の大手航空会社でのことなのだ。パイロットは常務開始のある一定の時間前になると飲酒が禁じられている。にもかかわらず昨年摘発されたのが、全日空のパイロットが事前の検査でアルコール反応が検出され、直前で交代させられる事態となったという事案である。それだけでなく客室乗務員までも勤務中の飲酒の疑惑が指摘されている(※6)。2017年は大きな航空事故がゼロであったのと比べると一転して影を落としているのが今の航空業界なのだ。

今こそ陸上移動である可能性

事故率でいえば最も安全と言われている航空業界ではあるが、上述の通り本当に大丈夫なのか、と不安に思わずにはいられない。これと対照的に筆者が注目しているのが陸路=鉄道事業である。国内輸送でいえば車両による輸送がメインになることは言うまでもない。一方で近年特に盛り上がりを見せているのが「高速鉄道」事業である(※7)。日本の新幹線のような高速移動が可能な車両を世界中に敷設・連結しようというわけである。陸上移動のメリットは飛行機と比べて天候の影響を受けづらいことや、事故ゼロとまではいかないもののより安全性が高いことが挙げられる。さらに各車両を一列に繋ぐことでより多くの物資を一度に運ぶことが可能である。物流面での輸送率は車両・貨物船で9割以上を占める。そして、物流において貨物船に次いで規模が大きいのが鉄道によるものなのである(※8)

そんな鉄道事業を拡大しようという動きを特に活発化させているのが中国である。同国が推し進めている「一帯一路」政策では東南アジア諸国をはじめ、はるか欧州までも線路を伸ばすべく協力関係の構築・投資拡大を目指している(※9)。たとえばインドネシアでは日本に競り勝つ形で中国が同地域で高速鉄道事業を勝ち取った経緯がある。

また日本も負けてはおらず、タイ、バンコク、そしてインドなどから続々と受注しており、日本としても鉄道事業での躍進を狙って活動している。有名どころでは日立製作所(証券番号:6501(※10))がある。車両の製造でいえば日本車輌製造(証券番号:7102(※11))がある。物資輸送用の鉄道としてだけでなく、人が乗るための新幹線も輸出が進んでいる。特に「日本式」と呼ばれる日本の技術を結集させた新幹線の評価が上がっている(※12)。事故が少ない日本の新幹線を理想とする国々が多いということだろう。

ただし、それではマーケットの動きのごとく乱高下が激しくなりつつある飛行機ではなく、鉄道で移動すればよいのかといえば、単純にはそう言い切れないことも事実だ。日本は海に囲まれた島国であり、海上に線路を敷設することは完全に不可能とまでは言えないものの現実的とは言い難い。島国である以上、鉄道による陸上移動だけでは限界があるのは認めざるを得えず、そこで思いつくのが海上移動で大陸まで渡り、高速鉄道で大陸を移動するという方法だ。飛行機が庶民の足になって以来影が薄くなったものの、海上ルートでの日本から韓国、中国、そしてロシアへの移動は未だ健在である。例えば博多港から韓国・釜山港へ渡る「ニューかめりあ」は5時間半ほどで移動可能で一度に500人以上乗ることが出来るのが魅力だ(※13)日本郵船(証券番号:9101(※14))川崎汽船(証券番号:9107(※15))などが日本の海運業をリードしている。一度に大量に、が飛行機に負けない海上・陸上移動の良さといえるだろう。

飛行機が不安視されつつある中でこうして再び脚光を浴びる可能性を秘めているのが鉄道であり、船である。そしてそれをさらに推し進めているのが中国の「一帯一路」でもあり、日本もそういったインフラ事業に進出しようと躍起になっているというわけである。

おわりに ~何に乗るべきなのか~

飛行機こそ今や庶民の足である。しかしながら先述したような飛行機事故や航空業界のスキャンダルがそれに影を落とす形となっているのは否めない。さらに中国の「一帯一路」政策に見られるように、やはり陸上移動だ、という動きも加速しているのが現状なのだ。それではこれから一体どうなるというのだろうか。飛行機なのか鉄道なのか、はたまた船なのか。そしてそういった我々の移動手段の選択肢が増えることで、改めて私たちは「時間の整理」と「空間の整理」を求められることになる。

そもそも筆者はここまでの一連の流れがグローバルな規模での物流慣習を大きく変えることになると見ている。カギを握るのは欧州、中央アジア、そして東アジアまで続く超・長距離路線が開拓される可能性である。仮にこれが実現されれば貿易に際する輸送時間・コストが大幅に短縮されることが指摘されているのだ。これは東アジアの島国である日本にとっても無関係な動きでは決してなく、高速鉄道の輸出などによって参画できる可能性は大いにある。

ただし、そこで解決すべき課題が各地域に潜在的に在る地政学リスクだ。まず欧州ではテロ事件が頻発するなど不安が広がっているが、鉄道がその標的にされる可能性は十分にあり、国境付近での警備の問題も無視できない。その東の先にはカスピ海があるが、ここはここで油田を巡って争いがある地域であり、いかにして線路を通すのかが課題となる。

そもそも線路を敷設するに当たり、敷設地域にいかにして経済的に還元していくのかも乗り越えるべき課題である。とはいえ、今次のようなボーイング社の事故が機体そのものの不良によるもので、既に減産体制に入っていることは事実だ。仮に原因究明に時間を要し、かつ航空機事故がさらに増加するような事態になれば「飛行機が飛ばなくなる日」が訪れる可能性すらありうるのだ。そうなった時に島国・日本がどういった動きを示すことが出来るのかによって1つのモデルケースになることが出来る。もてはやされた航空業界が株価とともに低空飛行を始めつつある中(※16)で、事態の推移を注視すべき展開である。

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※1 https://ja.wikipedia.org/wiki/鉄道の歴史
※2 https://ja.wikipedia.org/wiki/日本の鉄道開業
※3 https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=9020.T&d=3m
※4 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43772720W9A410C1000000/
※5 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43772720W9A410C1000000/
※6 https://www.aviationwire.jp/archives/163446
※7 https://ja.wikipedia.org/wiki/高速鉄道
※8 https://vdata.nikkei.com/datadiscovery/09traffic/
※9 https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20190320-00118988/
※10 https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=6501.T&d=3m
※11 https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=7102.T&d=3m
※12 https://www.digima-news.com/20170215_13733
※13 https://traveltabi.com/ferry-trip/
※14 https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=9101.T&serviceKanriId=9101.T&pos=1&ccode=ofv
※15 https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=9107.T&serviceKanriId=9107.T&pos=2&ccode=ofv
※16 https://www.dailymail.co.uk/news/article-6799861/Boeing-shares-plunge-20billion-wiped-companys-value-two-days-UK-grounds-737s.html

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所
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