木材資源大国ニッポン ~デフレ縮小化と木材マーケット~

2019/03/01

はじめに

厚生労働省の統計不正問題を巡り我が国が揺れている。安倍政権では経済拡大、景気上昇を強調し、それを補強するかのような統計値が新聞で踊っていた。それが誤りだとなった今、我が国経済は縮小しつつあるのかと疑う事態となっている。実際、先月(1月)鉱工業生産指数(速報値)は3か月連続で低下した(※1)旨、報道されている。そうした中で、輸出産業であれば海外マーケットへ走るという方策も考えられる。しかし、国内産業であれば輸出産業化するか、新たなマーケットの創出に走るしかない。

その典型に一見思えるのが一次産業である。産業人口の高齢化もあって危機的状況にある旨、2000年代に“喧伝”されてきた中で、徐々に産業振興が図られてきた。そうした中で、EUとの間でEPAを発効したことが象徴するように、俄かに日本製品の輸出が拡大しており、一次産業にも光明が差し込んでいる。

その一次産業の中でも我々の日常生活にあまりに喰い込んでいるがために、あまり注目しないのが「木材」である。山間地が生産地であり、特に都市圏に住む人々にとってはなかなか馴染みが無い。本稿は、その木材マーケットはどのような現状にあるのか。今後どうなっていくのかを分析する。

木材マーケットの今

世界の木材輸出入動向を表すのが以下の図表1および図表2である。これを見ると明らかなのが、我が国の輸入量が如実に減少しているということである。木材や木製品は建築資材や製紙用材に用いられるが、それらは(労働)人口に強い順相関を有する。そのため、我が国でのマーケット規模が縮小しているように思える。

(図表1 世界の木材輸入量)

20190301_1

(図表2 世界の木材輸出量)

20190301_2

(出典(いずれも):林野庁(※2)

しかし、それは誤りである。図表3が示すように実は我が国の木材供給量は増大している。輸入木材量が減少している一方で国産材供給量が増大しているのだ。

(図表3 我が国における木材供給量と自給率)20190301_3

(出典:林野庁(※3)

 このようにマクロ・ベースでは、輸入量を減少させる一方で、我が国の木材供給量は増大している。したがって、我が国の木材マーケットの未来は明るいように思える。

デフレ産業化している木材産業

国産材の供給量は多くなっていることが前項までに判明した。実際、丸太や製材の輸出も活発化している。特に九州では、中国や台湾、韓国向けの輸出が積極化している。しかし、その実態はそうとも言えない。図表4が示すように、1980年をピークに全国平均山元立木価格は減少一辺倒なのである。一般的には安い外国資材が入ってきたためであると言われている。

(図表4 全国平均山元立木価格(林地に立っている樹木価格)の推移)20190301_4

(出典:林野庁(※3)

しかし、それだけでは無いようなのだ。輸入品の価格が高い・低いという話を考える際には、現地(輸出側)における生産コストの高低という観点もあるが、それ以上に問題なのが外国為替レートであろう。

長期トレンドで木材価格とその一例として円ドルレートを比較すると、木材価格は円高期であっても、価格が大きく上下動することは少ないという(※4)。他方で、円安期に入ると輸入資材量が大きく増大していくという構造があるという。

こうした流れがある中で興味深いのが、実は国内木材価格は今や海外木材価格よりも低いという事実である。木材には品質・用途に応じて分類があり、たとえばA 材は製材、B 材は集成材や合板、C 材はチップや木質ボードに用いられる。D 材は搬出されない林地残材などをいい、木質バイオマスエネルギーの燃料などとして利用することが期待されている(※5)

このうち、A材は主に住宅用途に利され品質や形などが重視されるため、これらの中でも高価値で取引されがちである。それに対し、B材からD材まではそうした品質は重視されないため、安価で取引される傾向があるという(※6)

また輸出面でも、上述したように九州から中国や台湾、韓国への輸出が拡大していると言及したものの、たとえば全体の45パーセントを占める中国向け輸出ではその用途の殆どはスギ丸太から梱包材、土木用材、コンクリート型枠など、品質をあまり重視しないものである。したがって、B材やC材といった安価なものの輸出が多いと言えるのだ(※6)

以上をまとめると、確かに国産材の供給量は増大しており、輸出額も増大している。しかしその実態は、その中でも安価な資材を外国に輸出しているということなのである。その輸入先である中国や台湾、韓国はそうした資材を加工し国内で利用したり、再輸出したりしているのだ。我が国は資源が少ないというが、木材について言えばむしろ資源輸出国なのである。

木材マーケットの未来は?

我が国において、耕作放棄地が問題となっている。その活用法の一つとして、山林化という施策が考えられている。たとえば、山梨県では2010年にそれを進めるための調査費を計上しているという(※7)。とはいえ、我が国においては木材供給量という意味での森林はもはや過剰になっている。

しかし、逆に考えなければならないのが、そうした森林の醸成に伴い我が国のエコシステムが徐々に再編しつつあるという事実である。まず森林が過剰になっているということは間伐ニーズが高まるあまりということだ。無論、労働人口の高齢化に伴いそのニーズを満たすほどのマーケットが直ちに生まれるわけではない。とはいえ、そうした間伐材の利用は引き続き続くこととなり、こうした資材の加工に関わる企業(たとえばシー・エス―・ランバー(証券番号:7808))への注目は続けるべきといえる。

他方で、エコシステムという観点から言えば、森林保存が最終的にそこを流れる河川を通じて最終的に海洋を富ませるという話はもはや常識になりつつある。木材マーケットへの裨益という観点のみならず、自然環境への裨益が大きいと言える。

単なる木材マーケットの趨勢のみならず、周辺マーケットということで一次産業マーケットにも注目してはどうか。

*より俯瞰的に世界情勢やマーケットの状況を知りたい方はこちらへの参加をご検討ください(※8)

※1 https://www.yomiuri.co.jp/economy/20190228-OYT1T50138/
※2 http://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/25hakusyo/pdf/18hon5-1.pdf
※3 http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/kikaku/attach/pdf/180928-2.pdf
※4 https://ir.kagoshima-u.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=9440&file_id=16&file_no=1
※5 https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/nourin/rinsei/files/11kaisetu.pdf
※6 https://webronza.asahi.com/business/articles/2018062900007.html
※7 http://www.pref.yamanashi.jp/quick/2204/22040427.html
※8 https://haradatakeo.com/ec/products/detail.php?product_id=3091

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所
トムソン・ロイターで配信され、国内外の機関投資家が続々と購読している「IISIAデイリー・レポート」の筆者・原田武夫がマーケットとそれを取り巻く国内外情勢と今とこれからを定量・定性分析に基づき鋭く提示します。
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