統合報告に求めるもの~投資家にとっては必読

2018/11/20

・IRという文字をネットで検索すると、一番にインベスターズ・リレーションと出てくる。すでによく知られているが、個人投資家になると知らない人も多い。最近マスコミに出てくるIRは統合型リゾートのことで、カジノをどのように作るかという点で話題になっている。

・IRと聞いてIntegrated Reporting(統合報告)とわかる人はまだ一部の関係者に留まる。統合報告書は、統合報告の考え方に基づいて、企業がまとめたレポートで、統合思考(Integrated Thinking)を十分取り入れているかどうかが問われる。

・①会社をよく知ろうとする時、②投資家として新たに投資するどうかを検討する時、③株主になった上で次に買い増すかやめるかを考える時、統合報告書は役に立つ。

・今後は、文字版だけでなく、統合報告のビデオ版や音声版がほしい。読むよりも、見たり、聴いたりした方がよくわかる場合があるからである。

・では、アナリストとして統合報告に何を期待するか。どう活用するか。この点についてそのエッセンスを述べてみたい。

・統合報告では、わが社の企業価値創造を語り下ろしてほしい。これは会社紹介ではない。製品やサービスの解説ではない。価値創造の仕組みを統合思考で語ってほしいのである。投資家は、何よりも理念やビジョンを明確に共有したいと思っている。

・では、企業価値とは何か。提供する価値には社会的価値と経済的価値の2つの側面があるが、会社としてそれらをどのように捉えているかを示してほしい。端的にいえば、両者の積集合か和集合かを明確にしてほしい。

・誰にとっての価値かという点で、ステークホルダーは多様であってよいが、投資家を軸にすることが第一義的である。その上で、ありきたりでないわが社独自のコンセプトの提示が望まれる。

・企業価値創造の仕組みがビジネスモデル(BM)である。このBMについては、長期の金儲けの仕組みであると位置付けると分かり易い。目先の利益ではない。企業が社会的存在として永続するには、一定の財務的リターンが必要であり、これを正当に確保していく必要があるからである。

・どの企業においても、今のBM(BM1)を次のBM(BM2)へ進化させたいと考えている。漸進的な場合もあれば、一気に革新的なものを求める場合もある。

・企業によっては、いくつもの事業を有しているので、BMも多様である。事業ポートフォリオの新陳代謝が常に問われており、どの事業においても、次のBMすなわちBM2の中身が最も重要である。

・新しいBM2を作り出すためには、資本(キャピタル)が必要であり、そのキャピタルを活かして、BM2を構成するアセット(資産)を作り上げていく。

・キャピタルには、人的(ヒューマン)資本、知的(インテレクチュアル)資本、設備(ファシリティ)資本、組織・社会関係資本、自然資本、財務資本など、6つがありうる。

・そのキャピタルを投じて生み出されるものが、結果としてのアウトカムである。6つのキャピタルを構成してBM2が作られるが、この時、価値創造の新しい仕組みにとって最も大事なマテリアリティは何かを特定する。

・マテリアリティとは、重要な構成要素とみてもらえばよい。そして、それらが、BM2にどう結びついているかのコネクティビティに着目する。

・このBMが実際に機動して、財務パフォーマンス(成績)が出てくる。その時、会社はどんなKPI(重要業績指標)を設定しているのか。

・投資家は、ROIC(投下資本利益率)、資本コスト、ROE(株主資本利益率)、知的資本生産性などを問う。財務戦略や株主還元の方針も明確にして実践してほしい。

・統合報告のカギはどこにあるか。社内の財務・非財務情報をまとめればよい、というものではない。寄せ集めではなく、統合思考で一本筋を通す必要がある。

・マテリアリティをきちんと定めて作り上げてほしい。ストーリーを考えて、コネクティビティがすっきりしていると分かり易い。

・こうした統合報告作るには、まず社長が思い・ビジョン・戦略を語ることである。そして、そのストーリーを補強していく。足らないものは取締役会での議論を経て、戦略的に作っていく。これを3年継続するとかなり水準の高いものができてこよう。

・手元の3冊を読んでみた。会社から送られてきたもので、オムロン、エーザイ、日本郵船を比較してみた。それぞれ個性はあるが、違いもある。業種が異なるので一概に比較できないという見方もあるが、投資家としては業種にこだわらず投資を考えるので、大いに参考になる。

・私の視点で投資に役立つかどうかを見ると、評価の順位は、オムロン、エーザイ、日本郵船の順であった。前年に比べて今回の統合報告書の内容はどうか。投資家からみて、どの部分がよくできているか。その視点を持った上で、会社主催の投資家説明会、株主説明会に参加したいものである。

株式会社日本ベル投資研究所
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