株主総会はおもしろいか
・何のために株主総会に行くのか。議決権の行使だけなら、郵送やメールで出来てしまう。議案の内容に興味がなければ、投票をしない株主も多い。少数株主なので自分の投票が大勢に影響するわけではない、と思ってしまえばそれまでである。
・一方で、機関投資家は議決権の行使に熱心である。すでに株主になっているのであるから、議案に対して明確な意思表示をする必要がある。受託者責任として当然の行為である。業績面で十分な実績を上げていない経営者の再任について、ノーをつきつけることもある。
・会社側では、会社が用意する議案に黙って賛成してくれる株主を過半数押さえてしまえば、揉めることはない。総会は儀式のようなもので、恙無く取り仕切ればよい、と思っているのだろうか。そんなことはない。株主軽視は昔の話で、今や総会屋はいない。暴れる株主もめったにいない。
・総会に出て大事なことは、株主に対する会社側の接し方である。これは、質疑の場面で最もよく現われる。典型的には、
① 質問に応える姿勢を示しながら、用意した答えを当たり障りなく引用しつつも、肝心なことには答えずに対応すればよいという逃げ腰型である。
② 質問には丁寧に答えているのであるが、株主が本当に聞きたいことが分かっていながら、余計なことにはふれず、質問にのみ直接的に答える文切り型である。
③ 質問は今1つ的を射ていないが、株主が知りたいことを咀嚼して広く捉え、具体的に分かり易く答える本物の対話型である。
・もう1つは、株主から、株主提案というほどではないが、会社の経営や総会の運営に対して、さまざまな要求が出される。消費者として、ユーザーとして、元従業員として、取引先として、株主として、地域社会の一員としてなど、いろいろ出てくる。これらの提案は玉石混交であるが、① 1つでもいいと思ったことはすぐに実行すると約束する即決型と、② 丁寧に引きとるだけで検討するともいわない沈黙型である。
・また、CEO(社長や会長)が議長となる場合、質問に対して、① 自分1人ですべて答えるか、② 全ての質問を担当の役員にふってしまうか、③ うまくバランスをとって運営するかにも、リーダーシップの実際の姿が垣間見える。
・いくつかの会社の株主総会に出席してみた。これはよい対話であった、という内容を取り上げてみたい。
・ソネット・メディア・ネットワークス(コード6185)は、ソニーの子会社であるが、広告に関する親会社との取引は5%にも満たない規模で、デジタル広告を外部で伸ばしている。一方で、最新のテクノロジーの開発では、ソニーグループからの出向を受けている。これが大きな強みになって、急成長を遂げている。
・野村総合研究所(コード4307)では、取締役に対して、譲渡制限付株式付与という報酬の仕組みを導入するが、その意味は、株を保有するというインセンティブをマネジメントに導入することで、株主と同じ目線で中長期の価値創造に邁進するようにするためである。
・弁護士ドットコム(コード6027)では、創業者の元栄会長(弁護士)は現在参議院議員であるが、2022年まで任期を全うしていく。議員としての目線で得た知見は、マネジメントにもフィードバックしていく。社外取締役は食べログを創ったプロやAIの専門家で、ネットワークに詳しい。こうした人の助言も受けていく。
・RIZAPグループ(コード2928)の株主総会は、日曜日開催で、5000人の株主がホテルニューオータニに集まった。40歳の瀬戸社長に質問することが楽しみのようで、質問が途切れない。札幌市場から東証1部への移行は準備を進めているが、準備の過程でそれよりも早いペースで会社の事業を展開しているため、資料と審査が間に合っていない。
・会社の発展ペースを落とすことなく、東証上場を急げという株主の声は、多くの賛同を得ていた。カルビーの松本元会長が、ライザップの取締役(COO)に選任された後の挨拶は、拍手喝さいであった。「私のこれまでの実績を見てもらえば、ここでの結果にも期待してほしい」とコミットしたのである。
・丸井グループ(コード8252)では、フィンテックの一貫として、カードビジネスでの若者の顧客基盤を活かして、積立NISAや投信などの証券ビジネスに入っていく。クレジットの活用は社会問題にならないように対応していく。信託報酬が少ないので、証券ビジネスの黒字化には5年を要するが、新しい顧客層を広げていくと明言した。
・エムスリー(コード2413)は、中期計画は作らないと説明した。事業環境の変化は激しいので、中期計画に縛られることなく、長期のビジョンを臨機応変に追いかけていく。ITの人材は、人数を追わずに、レベルの高い人を採用している。賃金が2~3倍高くても、生産性は10倍という人材を大事にいている。医療ITはゲノムまで含めて幅広く拡大していく方針である。
・こうした話を、株主総会で経営トップから直接聴くことができる。逃げの答えでなく、文切り型でなく、実質的な対話となっている。ここにフォーカスすると、総会はおもしろい。そうでないと形式的な会議になってしまう。
・総会を当たり障りなく過ごしたい会社は多い。しかし、本当に対話をしたいと思ったら、土曜日、日曜日の開催を考えてもよい。何よりも中長期的な企業価値創造が大事であり、そのためのビジネスモデルの変革に全力をあげてほしい。
・その姿を総会でみせれば、株主は拍手喝さいし、生みの苦しみや先行投資も待ってくれよう。熱意が伝わるからである。それに対して、本気度を見せず、逃げ腰になると、それは株主にすぐに分かってしまう。
・経営陣の本気度をみるために、まずは少しだけ株主になって総会に行ってみよう。できたら、自分で質問してみることである。そして、信頼がもてそうと自信がわいてきたら、継続的に買い増していけばよい。こういう総会の活用を実践したいものである。