経営デザインシートの活用~ビジネスモデルの変革に向けて

2018/08/03 <>

・2017年の未来投資戦略では、「Society 5.0の実現に向けた改革」がテーマであった。政府の基本方針の骨格を議論し、それをまとめたものである。Society 5.0とは、①狩猟社会、②農耕社会、③工業社会、④情報社会、の次にくる成長フロンティアをイメージしている。

・そこでは、IoT、BD(ビックデータ)、AI、ロボットなどの第4次産業革命の先端技術を、あらゆる産業と社会生活に導入していく。それを通して、さまざまな社会課題の解決に向けて、イノベーション(革新的な仕組みづくり)を活かして、一人一人のニーズに合わせたサービスを提供しようというものである。

・高齢者への対応、働き方改革、サプライチェーンの進化、人材力の強化、行政手続きや規制の見直し、フィンテックの活用など取り組もうとしている。①健康寿命の延伸、②移動革命の実現、③サプライチェーンの次世代化、④快適なインフラ・まちづくり、⑤Fintech、⑥データ活用基盤の構築などに力を入れている。

・2018年の未来投資戦略では、『「Society5.0」・「データ駆動型社会」への変革』をテーマとした。データ駆動型社会が加わったのである。

・AI、BD、IoTなどが社会に実装されていく中で、米国、中国を中心にデータの囲い込みや独占を図るデータ覇権主義の台頭が懸念される。デジタル時代の価値の源泉であるデータや、それを駆使して新たな価値を創出する人材のグローバルな争奪戦も始まっている。

・日本は圧倒的に人材不足である。このままでは、日本は国際競争大きな潮流の中で埋没しかないという危機感が政府にある。日本の課題は分かっている。それを現場からのリアルなデータによって見える化し、課題の解決に向けて、新しい社会改革に取り組んで、成功体験を積み上げでいこうというねらいを込めている。

・そこで、今年のテーマは「Society5.0」に「データ駆動型社会」が加わったものとみられる。人手不足には、AIやロボットによって自動化が進む。過度な業務負担が大幅に軽減されよう。工場だけでなく、オフィスでも、町でも、家庭でも利便性は上がってこよう。

・自動翻訳で、外国語とのコミュニケーションもやり易くなる。遠隔サービスやリアルタイム化の進展で、新しいサービスが次々と登場してこよう。今まで、使われていなかったデータを収集、分析、活用することで、新しいサプライチェーンが作られる。医療・介護、農産品、観光、行政においてもサービスのあり方が大きく変質してこよう。

・人材を活かす制度も2つの面で変化していく。国の政策としては、女性、高齢者、障害者、外国人、などがより活躍できるように舵取りをしていく。民間でも、大企業、中堅中小企業とも、必要な人材の中身が変わってくるので、いい人材に来てもらえるような働き方の魅力を備えていかなければならない。

・双方において、人材の教育は必須である。働く人々も、①自分は今なにできるのか、②次に何ができるようになりたいのか、を真剣に考えて努力する必要がある。学び続け、新たな経験に挑戦することが、おもしろい仕事に出合えるカギとなろう。

・未来投資戦略の中で、知的財産をいかに作り出し、活用していくかという点で、「デザイン経営」が提案されている。これに着目したい。デザイン経営とは、まさに経営をデザインすることである。

・体験や共感を求めるユーザーの多様な価値観が市場をリードする社会では、経営の骨格を支える知財の役割は一段と大きくなる。企業の価値創造のメカニズムを機動的、継続的にデザインして、イノベーションを創出することが極めて重要となる。こうした価値創造メカニズムをデザインするための仕組みが提案された。

・内閣府の知財戦略本部に設置された「知財のビジネス評価検討タスクフォース」の報告書、『経営をデザインする』はおもしろい。知財を特許のように狭く捉えるのではなく、‘知財のビジネス価値’を企業など組織の価値創造メカニズムと結びつけて評価する。その評価方法を「経営デザインシート」と名付けている。

・企業は、新しい企業価値を創り出すメカニズムを構築し、それをビジネスモデル(BM)として設計(デザイン)し、実行に移していく。1つの企業にとってBMが1つの場合もあれば、数多く有する場合もある。

・BMは、時代とともに栄枯盛衰する。近年ではそのスピードが速まっている。輝いているBMもすぐに色あせてしまうかもしれない。多様な事業ポートフォリオを有する企業においては、ポートフォリオも入れ替えも含めて、事業ポートフォリオのマネジメントが重要である。

・これを1枚のシートにまとめたものが、「経営デザインシート」である。BMを軸にした価値創造メカニズムを1枚のシートで見える化する。大企業でも中小企業でも自社の内部評価に活用できる。外部のステークホールダーである投資家や金融機関は、その企業を評価する時の分析フレームワークとして使える。

・y(提供する価値)=f(x)(f:BM,x:経営資源)として、価値創造メカニズムを捉え、xとしての主要な経営資源は何かを明らかにし、それに知財がどのように関わっているかを分析する。

・f(x)はBMなので、価値が収益を生み出す仕組みを明確にし、そこでの知財の役割を特定する。これが現状のBM1であるが、次に将来はどのようなBMにしたいのか。ここを具体化する。これがBM2である。

・経営方針との関係を明確にしながら、主要な資源はどう準備するのか。足らない資源はいかに開発していくのか。BM2を通して提供する新しい価値は何か。そのための課題に対して、どのように手を打つのか。それが、まさに実行戦略となる。

・経営デザインシートをみても、特に新しいとは感じないかもしれない。しかし、これは実践的で同じフォーマットを誰でも活用できる。経営者の目線と現場の目線を合わせることができる。

・細かい分析資料や計画書は、どの企業にも自社なりのフォーマットで存在しよう。しかし、統一の経営デザインシートにまとめてみると、新しいことが分かろう。投資家も、この1枚に知りたいことが入っている。ここから、企業との対話が弾むことになろう。

・財務データの分析は当然として、同時にこの経営デザインシートを「投資家向け企業価値評価シート」として活用できよう。シートの項目やつながり(コネクティビティ)に、投資家サイドで定義した何らかの評点(マテリアリティの重み)を加えていくと、定性評価を相対比較しやすくなる。これを時系列的に継続し、他社比較すると、企業の価値創造を見抜く目が鍛えられていく。

・筆者は、似たような方法を既に実践して、その有効性を実感し成果を上げている。企業にも、投資家にも、銀行にも、ぜひとも活用してほしいと願う。企業価値創造の要である知財を、ビジネスに活かす新たなイノベーションが創出されよう。

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