競争力のあるIT戦略を有する企業とは

2018/06/25 <>

・5月に、4回目となる「攻めのIT経営銘柄」が公表された。経産省と東証の共同で実施されたものである。従来の業務効率化を中心とした‘守りのIT投資’ではなく、企業価値向上に結びつく‘攻めのIT投資’にフォーカスしている。

・今回は、IoT、BD(ビックデータ)、AIなど、最新のITを活用して新たなビジネスを創出する取り組みを評価すると同時に、将来に向けてレガシーシステム(老朽化、肥大化、ブラックボックス化したシステム)の刷新を行う取り組みも高く評価している。

・選定プロセスは、1)東証上場3500社にアンケートを送り、2)491社から返信のエントリーを受けた。3)アンケートのデータをもとにスコアリングして一次評価を実施した。その中ではROEの水準も加点されている。

・4)そこで選ばれた企業を二次評価した。具体的には、アンケートに記述された企業価値向上のためのIT投資プロジェクトの事例を選定委員が評価し採点した。

・セクターごとに「攻めのIT経営銘柄」が選定され、今回は32社が選ばれた。1社も選ばれないセクターもあれば、時価総額の大きいセクターからは数社が入った。

・3年連続で選ばれた企業は、アサヒグループHD、ブリチストン、日産自動車、JR東日本、三井物産、東京センチュリーであった。今回初めてという企業は、建設業のTATERU、サッポロHD、帝人、凸版印刷、関西電力、ANA HD、大和証券グループ、大京、DeNAであった。

・また、攻めのIT経営銘柄には選定されなかったが、注目される取り組みを実施している企業を「IT経営注目企業」として22社ほど選んだ。

・例えば、三菱ケミカルHD、資生堂、ダイキン、MS&ADなどに加えて、京都機械工具、システム情報、テクマトリックス、シンクロ・フード、TDCソフト、ルネサンスなども入っている。

・評価項目は5つの柱から成る。第1は、経営方針としてのIT活用である。経営方針、経営計画において、企業価値向上のためのIT活用がなされているかを評価する、例えば、IT活用に関するミッション責任者が任命されているかも重要である。

・第2は、戦略的IT活用である。ここでは、企業価値向上のためのIT活用の取り組み内容とその成果を問う。

・第3は、推進体制と人材である。攻めのIT経営を推進するための体制と人材について、IT活用の検討体制、最新のデジタル技術適用の検討体制、IT活用を支える人材などを評価する。

・第4は、インフラとしての基盤的取り組みである。IT経営を支える基盤として、経営トップの情報セキュリティリスクについての認識や、全社データの整合性確保への取り組みなどをみる。

・そして、第5は、IT投資評価である。投資における評価基準を定め、改善への取り組みを行っているかを問う。例えば、実験的なIT投資に関する評価基準、投資効果最大化への取り組みなども評価する。

・IT活用で最も大事なことは、ビジネスモデル(BM)の変革を通じて、製品・サービスの競争力を高め、新たな価値を創出することである。ところが、企業価値創造は、1つの要素だけに依存しているわけではないので、IT投資の効果は中々見えにくい。効果が見えないものには投資しにくい、となってしまう。

・攻めのITは、BMの変革に直接働きかける必要がある。ビジネスの現場でIT投資を見える化させることである。当然、人の働き方も変わってくる。顧客が新しい価値を感じとれることが最大のポイントである。

・この表彰のねらいは、セクターごとにベストプラクティスの事例を示して、それが他の企業にも波及して、攻めのIT経営を産業全体に広げることにある。IT投資はすでに盛り上がっているが、もっと拍車をかけて変革を進める必要があろう。

・攻めのITは今や当たり前になりつつある。製造業でのIoTは実践レベルにあり、フィンテック(金融)、不動産テック、パブリテック(公共)など、~テックというIT投資が推進されている。ベンチャー型企業が大企業のすきまをついて、新しいサービスを提供しようと勃興している。

・いずれの分野も、米国の方が進んでいる。日本では、社内システムができ上がっていればいるほど、変化への対応が遅れてしまうかもしれない。企業内に攻めのITが分かっている人材がいても、イノベーションになかなか火がつかない。

・ここをどうするか。それはトップの見識に依存する。レガシーシステムに胡坐をかいていれば、それは相対的退歩を意味する。レガシーを一新するにはパワーがいる。社長としては、そんなことよりもやることは山のようにあると考えて、IT投資が後回しになりかねない。しかし、ここで差が付くと取り戻すのは困難で、まして先頭に出ることができなくなる。

・人材がいなければ、既存の人材を再教育する必要があろう。営業現場、開発現場、生産現場、サービス現場の人材をIT部門に集めて、外部のIT企業と組んでいくことである。自社の新しいITモデルを定めずして、外部のIT企業と組むことはできない。新BMの要件定義が問われるからである。

・攻めのITには、3つの組織能力が求められる。①機動性(スピード)、②柔軟性(フレキシビリティ)、③拡張性(エクステンシビリティ)である。そのためには、経営トップがITについて分かっている必要がある。IT担当者の問題ではない。CEO自らの戦略的能力が問われる。

・デジタルトランスフォーメーションを経営戦略に組み込めなければ、その企業の将来性に黄信号がつく。投資家としては、経営トップに攻めのIT戦略を直接聴いて、対話を進めたいと思う。

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