寿命延伸、資産延伸、そして企業延伸に向けて

2018/06/07 <>

・4月に、フィデリティの野尻哲史氏(フィデリティ退職・投資教育研究所長)の話を聴いた。テーマは、「人生100年時代を生きるお金との向きあい方」であった。人生の長寿化に備えて、資産の長寿化も考えてみたい。

・100年も生きられるか。たぶん無理だろう。でも、私の場合、母は95歳、叔父も92歳まで生きた。身近にそういう人がいるのも事実である。これまで、90歳まで生きるという気持ちで生活してきた。

・それまでお金はもつか。国の年金が実質的に減額の方向に向かうのは明らかである。年金財政が今のままでは苦しくなるからである。貯蓄は十分か。貯めてきたつもりであるが、おろして使うとなったら30年はもたない。

・40年働いて、あとの30年を蓄えで暮らそうといのは、土台無理な話である。90歳まで生きるなら、80歳まで働く必要がある。75歳以上の後期高齢者になると、病気になる人も増えてくるから、元気なうちは働くというのが妥当であろう。

・では、そんな高齢者に仕事はあるのか。元気であれば、仕事はありそうである。しかし、どこで働くにしても、1)誠実に、2)親切に、3)丁寧に、4)できるだけテキパキ、と活動する姿勢が問われる。一方で、ダイバーシティ(多様性)を認めないようなところでは働きたくない。

・お金はいくか必要か。これは毎月いくらで暮らすかという覚悟に依存する。いい暮らしをしていた人は、その水準をなかなか落とせない。しかし、前の生活年収との比率である目標代替率を定める必要がある。70%か50%か30%か。年をとると通常の生活費は減っても、医療費が増えてくるので、ここをよく考えておく必要があると野尻氏はいう。

・生活費として年間500万円を望めば、今後30年として、合計1.5億円が必要である。これは大変である。年金が200万円×30年あるとすると、0.6億円はカバーされるが、残りの0.9億円は自分で何とかする必要がある。

・これが80歳まで働けば、あと10年であるから、300万円×10年=3000万円となる。これなら、なんとかなりそうである。とすると、80歳まで働くことが大事である。まずは健康を維持すること、そして継続的にできる仕事を見出すことである。

・野尻氏は、老後は「使いながら運用する時代」であると提言する。若者は、年収の12%を資産運用にまわして、資産形成に力を入れるべし、と強調する。年3%で回る投信はいろいろあり、非課税型の口座(積立NISAなど)を使うともっと効率がよい。

・そして、老後に資金が必要になってきたら、運用を続けながら「一定の比率」で引き出すことがカギであると主張する。例えば、総運用額の4%を引き出し、残りを継続的に3%のリターンで回せるなら、実質的な目減りは1%である。これが手持ちの資産を長持ちさせるコツである。

・年金で足らない分として毎月13万円引き出し、15年間使うと2340万円の貯蓄がなくなってしまう。これが4000万円を運用するとして、年3%でまわしながら、手持ち資産の4%を引き出すとすると、資産の減少額は累計600万円で済む。ずいぶん違ってくる。

・野尻氏は2つの点を強調した。1つは、アセット・アロケーションではなく、アセット・ロケーションが大事であるという。アセット・アロケーションは資産配分の比率を意味するが、それよりもまず資産をどこにおくか、ロケーションをよく考えよという意味である。きちんと増やすという意識を持つことが重要である。

・2つめは、デキュミュレーション(取り崩し)をよく考えよという。野尻氏は、これを単なる資産の取り崩しではなく、資産活用と名付けている。運用しつつ、どう取り崩してバランスを図っていくか。これが長生き時代の「資産延伸」ともいえよう。

・フィデリティのアンケート調査によると、現役世代は66歳での退職を希望しており、80代前半までの人生を想定している。また、投資をいつまで続けるかという点では、1)75歳までが40%、2)できるだけ長くという人が37%を占めた。

・運用を続けながら取り崩しを必要とする世代を、野尻氏はD世代(Decumulation Generation)と名付け、そのD世代にとって重要な資産活用のコツを示唆する。資産運用のパフォーマンスは年によって変動する。その時、毎年定額で引き出すとして、15年の長期でみると資産は大幅に減ってしまう。

・これを定率で引き出せば、パフォーマンスがよくて資産額が大きい時は、少し多めに取り崩せ、パフォーマンスが悪くなって資産額が減った時には、引き出し率が同じなので、引き出し額はその分減ってくる。パフォーマンスが悪い時は、少し慎ましく暮らす必要があるということを意味する。その方が、運用額を多く維持できるので、パフォーマンスが良くなった時の取り戻しも多い。ひいては、長い期間でみると、総額の運用資産を多めに確保できる。

・現実の年間パフォーマンスを当てはめてみると、4000万円を毎年160万円(毎月13万円)ずつ引き出して、残り分を運用した時の資産残高は、15年後で、a)いい時で2680万円、厳しい時で960万円であった。一方、引き出し率4%で対応した時には、15年後の資産残高は、b)いい時でも悪い時でも2480万円であった。

・このように、引き出し率をよく考えて、資産の減り方をコントロールするという話は大いに参考になる。私も年間4%で取り崩すことをベースに、90歳まで生きようと思う。そして、投資家としての運用は、80歳まで続けるつもりである。

・さて、みなさんはいかがでしょうか。そして、皆さんが働く企業はどうか。次の30年間、持続的成長が維持できるだろうか。「企業延伸の条件は何か」を改めて問いたいと思う。

 

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。