CGCの改定案を咀嚼する

2018/05/07 <>

・東証からコーポレートガバナンス・コード(CGC)の改定案が3月に出された。6月を目途に実施に移される。12月までに、次のコーポレートガバナンス報告書にそれらを盛り込んでいくことになろう。

・同時に公表された投資家と企業の対話ガイドラインでは、今回の改定内容を踏まえて、それらについて重点的に議論していくように求めている。

・その内容をみると、1つは、将来の事業戦略、財務戦略について十分議論し、明確な方針のもとに経営を行うことが要請される。その時に、資本コストを必ず明らかにすべし、と位置付けている。

・資本コストについて、日本企業の経営者は、多くの場合、頭ではわかっていても、実務においては実践していない。赤字か黒字かという損益分岐点をハードルとするのではなく、投資家が要求するリターンをベースに、事業の採算を考えていく必要がある。

・ここがピンとこない。しかし、事業の採算を考える時に、どのくらい儲けるかを考えない経営者はいない。投資家もそうである。黒字なら十分とは考えない。大儲けに越したことはないが、儲かればいくらでもよい、できるだけ大きく儲けたい、という曖昧な基準では困るのである。それでは、経営判断や投資判断ができない。対話も十分進まない。

・M&Aを検討する時には、簡便といえども、必ずWACC(加重平均資本コスト)を用いる。自社の企業価値が財務的にいくらか、という算定をする時にも必ず用いる。これが分かっていないと、自社株買いの判断基準がわからない。

・資本コストが明確でないと、個人投資家の素朴だが的を射た問いに答えられないし、アクティビストの仕掛けに論理的に対抗することもできない。これは経営の基本であり、ゲームのルールである。よって、はっきりさせておく必要がある。

・2つ目は、CEOをはじめとする経営陣の選解任の仕組み、役員報酬のフォーミラ(算定方式)、取締役会と社外取締役の機能の発揮について、考え方を明確にして実行してほしい。このニーズはますます高まっている。

・従来、社長は後継者を自分一人で決めてきた。今でも、自分が決めたいという経営者が大半であろう。それが重要な仕事の1つである。しかし、ステークホルダーからみると、会社が長く存続して輝いていくには、後継者を育成する仕組みを明確に、第三者の目が入ったところでフェアに優秀な経営陣を選んでほしいと願う。また、眼鏡にかなわなかったら、降りてもらう必要がある。

・オーナー経営者にとっても、サラリーマン経営者にとっても、十分な能力がないので交替といわれるのは不愉快である。あるいは、能力が発揮できているうちに、次にバトンタッチしてほしい、といわれるのも不満がたまる。

・しかし、もはやそういう時代の流れである。社会の公器としての会社は、その時の経営陣の勝手になるものではない。さまざまなステークホルダーの意思を反映して動いていく。

・当然、成果を上げた経営陣には高い報酬があってよい。しかし、低い成果しか上げられなかったとすれば、報酬もそれ相応であるべきである。勝負を恐れて、攻めの経営を行わず、そこそこの成果でうまく立ち廻ろうとすれば、投資家も社員もそれには満足できない。早々に経営を交替してほしいということになろう。

・3つ目は、政策保有株については、原則として意味がないので保有するな、もし保有に意味があるとすればきちんと説明せよ、という流れである。互いに株を持ち合って、株主総会を安泰に乗り切りたいというだけなら、それはお断りというのが投資家の声である。

・もっと一生懸命本気の経営をやってほしい。それがしんどいので、うまく立ち廻って逃げたいという経営者はいらない、とみられる。資本業務提携に重要な意味があるならば、それはきちんと説明できるはずである。

・4つ目は、企業年金を司るアセットオーナーは、もっとプロの見識と腕力を身につけて、自らの運用資金をマネジメントするべきである。利益相反を疑われないように、独立の仕組みを確立する必要があり、プロとしての力量が問われている。単なる天下り的地位に甘んじていればよいというものではない。

・以上、今回のCGCの改定の主旨を筆者なりに、少し大胆に解釈してみた。要は、各々の立場で、社会的価値の位置づけが問われるということである。

・ある意味当然のことである。誰にとっても、挑戦は常に新しい試みである。未熟な部分も多い。そこを全力で乗り切っていく努力が求められる。

・次の数年間は、これらを踏まえた新たな対話が進行しよう。これによって、企業の稼ぐ力が高まり、運用のパフォーマンスも目に見えて向上していくことを期待したい。

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