オムロンのサステナビリティゴール

2018/02/19 <>

・12月に、オムロンのサステナビリティに関する投資家向け説明会が初めて開催された。テーマは4つであった。①サステナビリティへの取り組み、②人財マネジメント、③ものづくりのサプライチェーンマネジメント、④リスクマネジメント活動について、説明と質疑が行われた。

・サステナビリティに関する活動はすでに活発化していたが、2017年度にスタートした中期計画(VG2.0)では、従来型の中期計画とサステナビリティ活動を統合して一体的なマネジメントを行い、企業価値創造に関するコミットメントも明確にした。

・中期計画と統合したサステナビリティ目標とKPIを設定したので、中期計画の目標にサステナビリティがきちんと組み込まれている。SDGsとの結びつきと、それへの貢献もはっきり分かるようにした、という点で画期的である。

・取締役会は、サステナビリティ方針に基づき、課題への取り組みを監督していく。経営トップの中長期業績連動報酬のKPIに、サステナビリティに関する第三者の評価指標も取り入れるようにした。

・こうした内容を統合報告に開示し、ステークホルダーとの対話を強化していく。その一貫として、今回の説明会も設定された。

・VG2.0(中期経営計画)とサステナビリティ戦略の統合では、1)事業を通じて解決する社会的課題を、ソーシャルニーズへの対応という形で4つの事業ドメイン(FA、ヘルスケア、モビリティ、エネルギーマネジメント)の中で明確にし、サステナビリティの目標を設定した。

・もう1つは、2)ステークホルダーの期待に応える課題として、組織の運営機能面において、①人財マネジメント(企業理念の実践)、②ものづくり(サプライチェーンを含むサステナビリティ)、③リスクマネジメント(グローバルな備えと対応)の領域においても、サステナビリティ目標を設定した。

・人財マネジメントでは、TOGA(The OMRON Global Awards)による企業理念の実践と、VOICE(エンゲージメントサーベイ)による社員の経営に対するニーズ調査が興味深い。

・TOGAは、グローバルな全社活動である。1年間かけて、企業理念の実践に向けて、①チームでチャレンジし、②企業理念を具体的に実践し、③そのテーマによる価値創造を全社で共有する。それを表彰する制度である。

・2017年度は、3.6万人の従業員に対して、6200テーマ、累計5.1万人が参加した。実際、1)フィリピンにおける死因第1位の心疾患の予防に向け、血圧測定を根付かせるという活動を展開した。4.4万の医療コミュニティに血圧計を整備したが、その活動では高額ながらオムロンの血圧計を落札することができた。

・2)韓国では、放射線技師の被爆リスクを避ける無線ハンドスイッチを開発し、顧客とのパートナーシップで製品化へ一歩踏み出した。3)日本では、グループの人材開発会社で、中小企業とニートの出会いをマッチングする仕組みを開発して、引きこもり人材の正社員化を推進し、人材活用に貢献した。

・VOICE(エンゲージメントサーベイ)では、①経営課題を特定し、②エンプロイメンタビリティ(雇用者としての能力)を測り、③社員の生の声を聴くことで、次のアクションに活かしている。つまり、社員の経営に対するニーズ、働く場としての魅力により迫ろうとしている。

・具体的なアクションとしては、1)多様な働き方(在宅勤務、時間有給制度)、2)社員の自己啓発制度(オンライン教育、高額自己啓発支援)、3)人材発掘育成(グローバル共通化、若手選抜育成)などに取り組んでいる。

・ものづくりにおけるサステナビリティ活動では、オムロンのものづくりポリシー(クオリティファースト、価値づくりの3F、ヒトとエコのH&E)に基づき、サプライチェーンマネジメントを実践している。具体的には、サステナブル購買活動のために、全サプライヤーと重要仕入れ先に分けて要求水準を設定し、そのレベルアップを図っている。

・リスクマネジメントでは、グローバルに統合された仕組み作りを目標にしている。①外部環境リスク、②経営・事業戦略・財務リスク、③その中の人的リスク、リーガルリスク、④自然災害リスク、⑤それらに対応したリソース・インフラリスク、に対して、リスクの精度を上げ、グローバルな現場浸透に取り組んでいる。

・オムロンのサステナビリティ活動は、TOGAに代表されるように、共鳴の和を広げ、インクリュージョンをベースにしている。しかも、事業を通しての活動が基本である。いかに現場に結びつけていくかに注力しており、この結びつきが強くなるほど、企業価値創造への実効性は高まってくる。

・サプライチェーンの仕組みでも、オムロングループの努力だけでなく、価値を作り込み、届け、変化に対応するには、サプライヤーとの連携が重要である。4つの事業本部を横軸でリードするものづくり本部が、購買、品質、開発、生産、環境などに関わっている。3000社のサプライヤー、200社の重要仕入れ先と連携している。

・M&Aに当たってはどうか。オムロンウェイが浸透させることが最も大事で、買収後はすぐにTOGAに参加させ、グローバル大会を目指すように活動する。これによって、企業理念の定着を図ろうとしている。

・苦労している点は、①しつこく継続すること、②グローバルに同じレベルに持っていくこと、にある。今後の深化の方向としては、1)どんな価値を創っているかを見える化して、社会とのつながりを深めていくこと、2)社員の自主性を高めてやりたいことを実現させていくこと、3)共創に向けてパートナリングを深め広げていくこと、にある。

・アナリストからは、こうしたサステナビリティの活動が、財務的KPIにすぐにどのように表われてくるのかいう質問が多かった。最終的な目標としてはその通りであるが、短期的な成果にばかり注目しても無理がある。

・財務的成果の前に、①価値創造の仕組みであるビジネスモデルの構築が十分か、②そこにサステナビリティ戦略も活かされているか、③それを定性的、定量的に評価して、長期的にみていくこと、が必要であろう。

・オムロンの統合報告書は、WICIの表彰で優秀企業大賞を受賞した。レポートだけでは十分表現されていないこと、投資家、アナリストが十分読み取れないことも、中期計画説明会や今回のサステナビリティ説明会に参加して議論すると、理解が深まる。企業とのエンゲージメントにとって重要であるという証左であると同時に、双方のパフォーマンスの向上にも大いに貢献しよう。

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