ガバナンスの真価はどこに

2018/01/23 <>

・円谷昭一先生(一橋大学准教授)に著書をいただいた。“コーポレート・ガバナンス「本当にそうなのか?」大量データからみる真実”という書名である。この本は面白い。ビックデータを分析して、通説とは違った事実と解釈を提示している。

・詳しくは原書に目を通してほしい。そこで分析されている論点について。私なりの考えを述べてみたい。個人的体験に基づく1つの見方にすぎない点には留意していただきたい。

・第1は、社外取締役の役割と在任期間、企業価値向上へのインパクトについてどう考えるか。

・第2は、上場企業の経営者を経験した相談役・顧問が社外取締役に適任なのか。その時の報酬はどのように考えるのか。

・第3は、日本企業の中期経営計画のほとんどが実現されないが、欧米企業と比べてその特異な存在は今後どうしたらよいのか。

・第4は、株式の持ち合い(政策保有)は結局どんな意味を持つのか。やめられないとすればなぜか。

・第5は、自社株買い(自己株式の取得)をいかにフェアに行うか。その意味はなにか。

・独立社外取締役の役割は、経営における監督と助言にある。この2つの機能をどのようにバランスさせるか。

・社外取締役は、経営者、学者、会計士、弁護士、投資家、金融関係者、行政官経験者など、それぞれの分野をベースに、いかに望ましい知見の域に達するかが問われる。いずれにしても、まずはその企業の経営実態を深く分析して詳しく知る必要がある。

・それにはどうするか。アナリストの経験でいえば、累計50時間のインタビューを行うと、その企業が一応分かった気になり、スタート台に立てる。個人差はあるのだろうが、企業価値向上に貢献していくには、2年程度の経験は必要であろう。

・自らの体験をベースに、監督と助言を行い、その過程で新たな知見を蓄積していくとしても、その累積効果は次第に低減してくる。経営環境は目まぐるしく変化していく。経営者も交替していく。その中でのバランスを考えると、自らの能力の発揮具合と、新しい人材の登用を考えると、社外取締役の任期は6~8年くらいが1つの目途であろう。

・企業の相談役、顧問とは何か。外部から目的を持って招聘された人は別にして、経営トップを経験した後で、相談役、顧問をなるのは一種の緩衝材である。次のマネジメント陣にとって、前任者のアドバイスやコンサルが本当に必要なのだろうか。たぶん、現経営サイドからみればいらないであろう。

・業界活動や財界活動にとって必要な存在ならば、そのように明示すればよい。しかし、これも合理的ではない。対外活動を行えば、必ず会社にも影響してくる。その時、会社を代表して何らかの責任を担って、代理人として活動するなら、それなりの位置付けを明示しておく必要がある。その時のレポーティングラインは誰なのであろうか。社長や会長の部下という位置付けであろうか。

・一種の名誉職で、すぐに会社を離れるのは本人も寂しいし、後継トップとしてもしのびない。そこで、慣例として一定の処遇をする。しかし、一般の社員や執行役員、取締役は通常相談役や顧問にはならない。役割を終えたら、会社を離れるのは当たり前である。それと同じ行動で、何が不都合なのだろうか。

・高額所得だったので、翌年の税金が大変であるという見方もあるが、そんなことはない。もらった所得から支払えば済むことである。秘書や社用車は役割のためであり、それが終えた後に必要はない。単なる慣例なので、やめてしまっても不都合はない。

・すでにそういう会社はある。社内ルールとして明確化すればよい。投資家はガバナンス上問題にしている。海外の投資家はそもそもおかしいと言っており、見直しに反論するのは難しい。社会的な新しい常識として普及すれば、従わざるをえない。

・どのように独立社外取締役を選んだのかと聞いてみると、何らかの信頼関係がベースになっている。社長、会長の友達を選んでもよい。信頼できる友人なら、ふさわしいと考えるかもしれない。しかし、この方法はあまり適切でない。自分の友人に会社の弱みや課題を本当に話すか。多くの場合、そんなことはない。

・とすると、一定の距離を置きながら、信頼できる人がほしくなる。そうすると、信頼できる人や機関の紹介がベースになって、その後審査を経て、面接することになる。それをインフォーマルにやるか、フォーマルにやるかが問われる。

・経営者に聞くと、何も言わない社外役員はいらないという。かといって、監督と助言が執行の足かせになるような的外れの意見ばかりでは困る。マネジメントの執行に目を光らせ、いざという時には、事前に突っ込みを入れて、最後まで一貫した姿勢を示す人物が求められる。

・社外取締役の報酬はいくらが妥当なのか。企業の規模や事業内容によって、年俸で200~2000万円までさまざまである。取締役としての役割を果たすのであるから、適切な報酬は必要で、低ければよいというものではない。グローバル企業であれば、かなり高い水準になってもよい。

・そこで、役割に見合った働き方をしているかの実効性が問われる。外部からは、なかなか分からないが、取締役会に参加しているメンバーには、議論を通してかなり分かるはずである。企業価値向上をリードするのは、第一義的に執行サイドであるが、社外取締役の貢献もこれから評価対象となってこよう。

・日本企業は中期計画を作るのが慣例となっている。2年~5年が通常の中期である。この中期計画は多くの場合実現されない、ということが明らかになっている。どうしてか。計画は予想ではない。予想はそもそも当たらない。また、計画は目標であって、必ず達成するとは約束していない。

・下にはずれるのが大半であるが、間々上に外れることもある。3カ年計画を1年目で達成してしまうという例もある。逆に、1年目に大幅に下回ってしまうと、2~3年目の実現性がなくなってしまうので、3カ年計画自体が意味を失ってしまうこともよくある。

・何が問題なのか。1年目、2年目、3年目の売上高、営業利益の数値をKPIとして表現するからである。私は、この方式はやめるべし、と経営者に話している。

・経営者はどういう会社になりたいのか。その時の姿を表すKPIは何か。それを財務指標におろしてみると、どんな数値が一番ぴったりするのか。この点をよく考える必要がある。立派な会社なりたいと言われてもわからない。同じように営業利益100億円、1000億円の会社になりたいといわれてもわからない。

・経営環境は刻一刻と変わる。経営者は朝令暮改で、次々と手を打っていく。予算通りにいかないのが普通であり、それに対して、戦術的に対応するのが日常業務である。予算数値の積み上げや振り分けによる業績目標ではなく、どういう会社になりたいかを示すKPIを作るべきである。業績数値は持っていてよいが、逐次作り直していくものである。

・経営者として何にコミットするのか。コミットメントとは約束であり、責任をとることである。そのアカウンタビリティが問われる。アカウンタビリティとは説明責任だけではない。結果としての責任をとることである。

・今の中期計画が真にコミットメントであれば、ほとんどの社長が責任をとる必要がある。しかし、多くの場合、日本企業の中期計画はコミットメントではない。だから、中期計画を発表しても、株価はほとんど反応しない。

・投資家は中期計画の内容を理解しても、信用していない。よって進捗を確認する。ということは、足元の業績をみていく。それに一喜一憂すると、株価は短期業績連動型になっていく。こうした弊害を避けて、新しい形の中期計画の立案と公表が求められよう。

・株主還元はどのように行えばよいのか。安定配当の次は、配当性向をKPIとしてきたが、現在では総還元の方針を示すようになっている。自社株買いも一般的になってきた。会社が自社株買いを公表する時は、会社の業績実態に比べて、株価が割安になっている局面である。

・株主に還元するタイミングとして、自己株式の取得を公表する。大抵の場合、自社株買いに対して、会社は自信を持っている。あるいは、何らかの理由でマーケットの地合いが弱い場合、買い支えに入る。

・ある会社のケースでは、新しいイノベーションの話題がタイミングよく先行して、結果的に自社株買いを実行しなかった。公表して実行せず、というところだけをみれば問題であるが、割安感が全くないのに、実行する必要もない。ここの説明をどうするかが問われた事例である。

・持ち合いはどうするのか。経営者は、会社を乗っ取られたくない。自らの経営に文句をつけられたくない。経営に波風を立てられたくない。株主総会はしゃんしゃんと終わらせたい。こう思うのは普通である。

・一方で、取引関係を通常よりも強くして、フローの商売を上手くいかせるには、株主になっておいた方が都合がよい。より深い取引関係であるという証にもなる。銀行や生損保など金融機関、事業会社間でもその色彩は濃い。まして、株式の含み益が十分ある場合は特に支障が無いと考えてしまう。

・この経営姿勢に問題あり、という投資家の声が強くなっている。企業サイドも説明責任が求められる。持ち合いの合理性は下がっており、今後とも減少していこう。持ち合い自体が悪いとはいわないが、その理由を説明してほしい。

・説明しても、持ち合いの多い企業は、経営力が低いとみられることを当然と受け止める必要があろう。経営者が将来の経営に自信がないので、持ち合いを続けるとみられるからである。

・円谷先生の問題提起に対して、意見を述べてみた。著書の内容は大いに参考になり、異論、反論はない。その通りである、と理解を深めた。著者の指摘をベースに、経営者との議論を今後とも深めていきたい。

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