中国のBOE、液晶ディスプレイで世界トップ~その次はどうする

2017/12/21 <>

・11月の世界経営者会議(日経主催)で、京東方科技集団(BOE Technology Group)の創業者である王東升(ワン ドンシェン)会長(60歳)の話を聴いた。1993年の創業後、20年余りで日本企業を陵駕して、世界のディスプレイ市場においてリーディングカンパニーへと成長した。

・王氏が定義した「半導体ディスプレイ」産業において、3年で2倍の法則を実践してきた。「王氏の法則」として知られ、同じ価格帯において、3年でパネルの性能は2倍以上になるという意味である。

・液晶ディスプレイで、なぜ勝利を収めることができたのか。次はどのような企業を目指すのか。そのバイタリティに圧倒された。日本電産の永守氏のようなオーラを感じた。

・液晶ディスプレイ(TFT-LCD)の第1世代は、1991年のシャープから始まった。2017年には、BOEが10.5世代で世界をリードする。BOEは液晶の研究チームを94年に作り、2005年から量産に入った。現在は生産ラインを9本有し、12月から10.5世代を本格的に立ち上げる。

・液晶ディスプレイの世界シェアは、スマホ用で25%、PC用で30%と、世界№1である。規模を追いかけてきたが、実はそれ以上にイノベーションによって新しい破壊(ディスラプション)を起こす製品作りに力を入れてきた。

・王氏は35歳で創業し、社長として会社の急成長を引っぱってきた。25年の歴史において、ずっとイノベーションに執着した。それが生き残る唯一の道なので、技術開発に全力投入した。R&Dには売上高の7%を投じている。

・2014年に赤字となったが、8Kに向けたR&D投資は続けた。2017年の売上高は150億ドルになろうが、収益性は十分でない。2016年のROEは2.4%、今年3Qで8.0%へ改善しているが、まだそのレベルである。大型投資を継続していることによる。

・王氏は、農業社会、工業社会、情報社会の次にAI社会が来るとして、第4次産業革命のAI時代を3つに分けている。1)2016~2030年をAI narrow(IoT 1.0で1対多のやり取り)、2)2030~2045年をAI General(IoT 2.0 で多対多)、3)2045年以降をAI Super(IoT 3.0 で新しい次元)と区分し、壮大な夢を描く。

・AI時代には、①デバイス、②数理アルゴリズム、③データ、④セキュリティがカギを握る。いずれ遺伝子科学がAIと融合し、全く新しいイノベーションが起きるとみている。それを、‛ケイ素系と炭素系の融合‘による第4のイノベーションと名付けている。

・BOEは、IoTで世界のリーディング企業を目指す。ディスプレイ、センサー、AI、ビックデータで積み上げた実績をベースに、新しいITサービス企業を目指す。その領域は、DSH(ディスプレイ、スマートシティ、ヘルスケア)である。すでに、血液測定器を手掛けており、デジタル芸術(iギャラリー)にも取り組んでいる。

・BOEの最大の課題は何か。それは大企業病にならないこと、と自らを戒める。日本企業は液晶で遅れをとった。BOEは先行した。なぜか。1994年に液晶の研究に着手し、10年続けた。2003年に投資をして、本格参入した。その後もR&Dを続け、2013年から成長を開始した。

・8Kディスプレイは2012年にR&Dを開始した。R&Dで先行させ、世界初を創ることに力を入れた。戦略は、8Kを見せて、4Kを普及させ、2Kを置き替えていくにある。今、8Kは数社しかできない。一方で、通信の5Gも立ち上がってくる。2020年の東京オリンピック、2022年の北京冬季オリンピックには、8K+5Gを本格化させ、4Kで稼ぐというストリーである。

・これから成長のピッチが上がってくる、と王氏は強調する。これまで5年~10年かかっていた売上倍増が、今後は3年ペースに上がってくるとみている。そうすると、150億ドルの売上高が、10年で1000億ドルに達する。これは十分いけると宣言する。

・日本企業をどうみているか。20代の頃、パナソニックとブラウン管で合併を作った。松下幸之助氏の話を聴き、自伝を読んで感銘を受けた。松下、ソニー、京セラの創業者を人生の手本としているという。

・夜眠れなくなることが今でもある、と本音を語る。1)誰かに出し抜かれてしまうのではないか、2)大企業病になって努力しなくなるのではないか、という不安のためである。

・日本企業と同じ過ちを繰り返さないように心掛けている。それは、創業の精神を忘れないことである。中々耳が痛い。

・BOEのビジネスはB to Bである。よって、顧客とは競争をしない。顧客のためにサービスする。一方で、第4次産業革命が本格化すると、BOEも根本から変革する必要があると強調した。

・B to Cにも取り組んでいる。iギャラリーはその1つである。絵画などの芸術は、一般に高価で買えない。しかし、家庭でみることができたら、それはありがたい。若い芸術家は作品を創っても、発表の機会が十分でない。そこで、高画質のディスプレイを使って、芸術絵画を家庭で観られるようにする。それが、iギャラリーである。

・中国も高齢化社会に入っていく。庶民でもよい医療を受けられるようにする。そのためには保険が必要であり、ヘルスケアのサービスが不可欠である。ここにイノベーションを起こすという。

・経営者として、王氏は3つのハードルをあげる。1つ目は、創業の時のハードルで、これは乗り越えた。2つ目は、権限を任せるハードルで、幹部を育てるという点では、これも対応してきた。そして、3つ目は、引き継ぎである。自らがマネジメントから離れる時、自分より上手く経営する人にバトンタッチしたい。

・この後継者への引き継ぎについて、米国は上手いが、日本はどうかと聴衆に問いかけた。中国はまだ第一世代の経営者層なので、これからである。この3つ目のハードルが最大の課題で、ここを乗り越えたいと述べたのが、実に印象的であった。

・BOEとは「ベスト オン アース」を意味する。地球上で最も優れた企業になりたい、という思いが込められている。誠に素晴らしい。BOEは深圳(シェンチェン)市場に上場している。これからも大いに注目していきたい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。