ライツ・オファリングによる資金調達~成功したADワークスの正攻法

2017/12/04 <>

・ADワークス(コード3250)は、2017年9月、3回目のライツ・オファリングに成功した。38億円のファイナンスを活かして、今後、収益不動産残高300億円が可能となろう。今回のライツ・オファリングは画期的であった。

・既存の株主が不利にならないように、ディスカウントによるオファリングはやらなかった。ディスカウントがなければ、ファイナンスに応じる投資家が減って上手くいかないのではないか、という見方を打破した。

・ライツ・オファリングは、エクイティファイナンスである。当然、その資金を使ってどんな価値創造を行うか、というストーリーのよさと実現の蓋然性(確からしさ)が問われる。その本道を避けて、ライツ・オファリングはディープディスカウントにすれば、安易に資金が集められるという風潮もあった。これに正論をぶつけたのである。

・権利行使が45%であった。時価総額87億円(ファイナンス公表時)の企業が、38億円という金額を集める公募増資は通常ありえない。公募の上限は時価の20%以内というのが一般的な見方である。当然株数が増えるので、目先のEPSが減少する。

・そこで、ファイナンス資金を活用していかにビジネスを拡大し、収益性を高めるかが問われる。経常利益を20億円以上に伸ばすことができれば、何ら問題はない。

・6月29日の株主総会で承認を得て、7月12日の株主に対して1:1の割合で新株予約権を無償割当した。4月25日の取締役会で今回のファイナンスを決議したが、その前日の株価39円が行使価額であった。新株予約権の総数は約223百万個である。39円×223百万個=約87億円に相当する。権利行使の期間は7月13日~9月12日の2カ月間であった。

・この期間でどのくらいの権利行使比率となるか。100%なら発行費用(1.6億円)を差し引いて、85億円の調達となる。50%なら発行費用(1.2億円)を差し引いて、42億円の調達となる。もし、株価が39円より下の水準で推移するならば、権利行使は0%となって、資金調達もゼロとなる。結果は45%の行使比率、38億円の調達であった。

2017年3月末の株主は1.2万人強であった。100株で3900円、1000株で3.9万円、1万株で39万円の払い込みとなる。1万株以下の株主数が全体の8割を占めた。多くの少数株主にとって、投資可能な金額の範囲ではあったろう。

・前2017年3月期の配当は年間0.55円である。1000株として550円、3.9万円に対しては1.4%の配当利回りである。これに対して、2017年9月末の中間配当で、1.65円の感謝配当を行うと事前に表明した。

・株主として3回のライツ・オファリングに協力し、会社を応援してくれたことに対する株主還元である。それを感謝配当と名付けた。いわゆる株主優待ではなく、全株主に対する平等の株主還元である。1.65円は権利行使価額39円に対して4.2%の配当利回りに相当する。この配当利回りは高いので、権利行使する価値はあった。

株主は、3月末の株主1.2万人が9月末に1.8万人に増えた。増えた6000人は概ね新規の株主であろう。既存株主のうちどのくらいが権利行使を行ったか、6割近くは全部行使か一部行使を行ったようである。1.8万人の株主のうち、3分の1が新規、3分の2が既存株主である。

・では、現株ではなく、ライツ(新株予約権)を買って、それを権利行使して株式に変えた人はどのくらいいたのか。これははっきりしないが、ライツの価額は権利行使期間(7/13~ 9/12)の間に1円~14円(終値ベース)で動いた。この時の現株は39円~51円で動いたので、現株よりも割高に買った人で、ライツの権利行使をした投資家もいたとみられる。

・理論値は、株価=39円+予約権価額 となるはずであるが、それが一致していない取引日も多い。現物株と予約権価額の間には絶えずアービトラージ(裁定)が働く。例えば1円で購入し、権利行使した人は39円を支払ったので、現株を40円で購入したことになる。出来高は現株よりもライツの方が多い日も多かった。1~14円で投資できる株はほとんどないから、トレーディングに興味にある投資家にとっては、投資妙味があったともいえよう。

今回のファイナンスは高く評価できよう。1つは時価総額の45%の権利行使が得られ、会社が必要とする資金が集められた。2つ目は、株価が下落せず、一定水準をキープした。ファイナンスの意義と中身がネガティブにとられることはなかったといえる。3つ目には、9月末に1.6円の記念配当がついたが、配当取り後の株価も落ちずにキープした。これは、当社の次の展開を期待しているという表れとみることができよう。

・今回のファイナンスは、時価総額に対して大きな金額(比率)のファイナンスをやりたい企業にとって、正攻法で実践することが大事であるとわかった。1)ファイナンスでどんな企業価値づくりをするのか、ストーリーを明確にする。2)既存株主を大事にして、投資家間で有利不利の歪が出ないように設計する。3)それらを前提にするとライツ・オファリングは有効に機能する。4)結果として株主づくりに大いに役立つ、という評価ができよう。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。