生産性をいかに高めるか~知的資本生産性に着目

2017/11/28 <>

・アベノミクスは毎年新しいテーマを掲げる。新しい目玉で政策をリードしようという考えであろう。そこには中長期的なビジョンが不可欠であるが、国として何をやるのかという政策になると、実効性という点でパンチがないという意見も出てくる。

・「未来投資戦略2017」について直接話を聴く機会があったので、その中身についていくつか検討したい。

・目指すべき社会は、Society 5.0の実現であると定めた。狩猟社会→農耕社会→工業社会→情報社会の次が、Society5.0(超スマート社会)であると位置づけている。IoTなどの先端技術が社会に融合され、必要なモノやサービスが、必要な人に必要な時に必要なだけ提供される人間中心の課題解決型の新しい社会作りを目指す。

・さらに、それを支える技術革新を、第4次産業革命と位置付けている。第1次が蒸気機関、第2次が電力・モーター、第3次がコンピュータで、それらが農耕社会を工業社会へ、工業社会を情報社会へと変化させた。

・第4次産業革命のシンボルはAI(人工知能)であるとみている。伸びてくる領域は、コネクテッドインダストリー、つまりAIが自ら考えて最適な行動をとることによって、つながりによる新たな付加価値が創造される産業と捉える。

・この領域で、新たなビジネスモデルが続々と生まれるはずであると期待する。日立の中西会長がいう壮大な構想の提案といえよう。

・その実現に向けて、力を入れる戦略分野を5つ特定した。①健康寿命の延伸(分かり易い事例:介護ロボット)、②移動革命の実現(モビリティロボット)、③サプライチェーンの次世代化(スマート農業)④快適なインフラ・まちづくり(i‐construction)、⑤FinTech(キャッシュレス化)である。

・国の政策として、横櫛を入れるべき政策も5つ挙げている。1)企業の稼ぐ力の改革(コーポレートガバナンスと事業再編)、2)データのオープン化(公共データの民間開放)、3)ルールの高度化(制度整備と規制のサンドボックスの創設)、4)人材育成(IT人材)、5)規制改革(行政手段の簡素化とIT化)である。

・ここで、サンドボックスとは、まずはやってみるという場の設定を意味する。いずれも難しい政策課題であるが、政府サイドは何としても規制領域に風穴を開け、成果を出していくと強調した。

・未来投資会議の今後の検討テーマは、1)生産性を高める投資をいかに引き出すか、2)人手不足をいかに克服するか、3)そのためのイノベーションをいかに推進させるか、について具体化することである。

・日本の労働生産性は米国の60%水準である。どうしてこんなに低いのか。仏、独、加、英よりも低い。米国と比べて、日本のソフトウェア投資の伸びは著しく低い。IT人材は大幅に不足している。売上高R&D比率も米国、欧州より低い。一方で、日本企業の内部留保、現預金は継続的に増えている。

・では、どうすればよいのか。マクロ的には、GDP = 人口(就業者数)× 1人当たりGDP(1人当たり付加価値=労働生産性)である。いかに生産性を上げるかが最重点テーマである。

・これから人口は減っていく。それに手を打つ必要がある。①健康な人にはいつまでも元気に働いてもらう、②女性と若者にもっとチャンスを作り活用する、③外国人技術者など、高度人材が日本で働きたくなるように仕組みを変え、どんどん入れることが求められる。

・労働生産性を上げるには、従来型のコストを切り詰める効率化ではなく、いかに付加価値を高めるかが問われる。端的にいえば、働いている人がもっと高い報酬を得られるように、ビジネスモデル(企業価値創造の仕組み)を変えていくことである。

・労働生産性をブレークダウンしてみよう。労働生産性=1人当たり付加価値であるから、これは労働装備率(設備/人数)× 設備生産性(付加価値/設備)と分解できる。

・労働装置率を上げるというのは機械化の推進である。今日的にいえば、ロボットの活用を意味する。確かに、サービス産業でもこれから大いにロボットが使われるようになろう。

・次に設備生産性は、設備の知的装備率(知的資本/設備)× 知的資本生産性(付加価値/知的資本)と分解できる。知的資本とは、ヒト(人的資本)が生み出した客体化(外部化)された知的財産(広義の知財)である。設備が知的資本を装備するとは、まさにAI化であり、それを支えるのがIoT、BD(ビックデータ)であろう。

・知的資本生産性は、知的資本を活かしたビジネスモデルやプラットフォームが新しい付加価値を生み出すことを意味する。こうみてくると、<労働生産性>=<ロボット>×<AI>×<プラットフォーム>ということになる。まさに、ビジネスモデルのデジタルトランスフォーメーションが求められている。

・ここで大事なことは、知的資本をいかに計量化するかである。この価値評価のKPIを特定することが極めて重要である。国の政策もここを議論していくことになろう。

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