本質的価値の見える化を~アナリスト不要論を越えて

2017/11/19 <>

・10月のアナリスト大会のパネルディスカッションは真に面白かった。資生堂の魚谷社長、丸紅の國分社長、小西美術工芸社のデービット アトキンソン社長がグローバリズムについて議論した。中でも、アトキンソン氏の論調が実にユニークで迫力があった。

・資生堂の魚谷社長は、世界で勝てる日本発のグローバルビューティカンパニーにすると覚悟を決めた。そのためには、各地域でのローカル化が必要であるが、日本は逆にグローバル化が必要であった。

・日本のビジネスモデル(BM)にはしがらみがあって、なかなか壊せない。それを打ち破っていくには、違った人材が必要である。グローバルな人材マトリックスを作って、人材の交流を進めている。

・世界6地域本社のうち、4人が仏人である。地域マネジメントにエンパワーメントする(権限を与える)には、経営を透明化しておく必要がある。東京の人材にもグローバルで同等に通用する能力が求められる。

・グローバル化をもう一段進めるために、日本人にはwhy-becauseを一層訓練させるという。外国人には日本語を学んでもらい、日本の本社は来年10月から英語を公用語にする。英語を学ぶことに1700人が手をあげたという。

・ギャラップの調査によると、社員のやる気を国別に比較すると、139カ国中日本は132位で、やる気が極めて低いという結果が出ている。これは組織のあり方に限界が出ているのであって、企業は熱意ある社員を作ることにもっと力を入れるべきと強調した。まずは、社員に光を当てて、グローバル化を目指す必要があるという。

・丸紅の國分社長は、グローバル市場で勝つには、ローカルでコアアセットを追求すべしと主張する。グローバリズムの中身が変化しており、デジタルトランスフォーメーションの時代が到来している。今後、金融市場は正常化に向かうとしても、シェアリングエコノミーが進行し、EV(電気自動車)の時代がくる。

・こうした変化はオポチュニティとみることができる一方で、下手をすると大きなダウンサイドリスクとなる。商社のBMはそれに応えられるかが問われている。

・米国はアメリカンドリームが期待できなくなり、格差の中で社会がギスギスしている。EUはドイツの一人勝ちになっている。カギは中国にあり、中国のグローバル化は、軍事と金融を梃に、西へ西へと向かっている。こことどうつき合っていくかが、企業にとっても大いなる課題であると指摘した。

・丸紅は利益の8割を海外に依存しており、日本の親会社の発想では限界がある。連結ベースでグローバルにどう成長するか。その時のカギは人材の多様化にあると述べた。

・アトキンソン氏は、かつて銀行アナリストとして、日本の不良債権の実態と銀行再編の行方について、大胆な分析を提供した。今は、文化財の保護と修復に力を入れており、観光立国への提言も行っている。

・①日本は技術大国である、②日本人は勤勉である、というのは妄想である、もっとデータと分析に基づいて現実を見よ、と警鐘を鳴らす。相変わらずのユニークさである。

・日本はグローバリズムを語る前に、国内を固めよという。国内を固めずして、海外で勝てるはずがない。その要は、生産性にある。日本の労働生産性は世界27位で、イタリアよりも低い。

・マクロ的に、生産性とは一人当たりGDPである。高齢者が多い、若者が少ない、女性を活用していない、などいろいろ理由を上げているが、そんなことでは説明できないという。

・もっときちんと分析せよ。データで示すことが重要である。日本のさまざまな会合に出ると、政府の会議であろうが、学者の会議であろうが、議論が情緒的で個人的な印象論を語っている。ほとんどが意味のない内容であると半分怒っている。

・生産性の問題は何か、日本の生産性が低いのは、企業経営者が現実と向き合わずに、不適格な経営を展開しているからであると断言する。政府の政策もしがらみを壊すようには動いていないと指摘する。

・日本は、人口が増えている時に経済がよかっただけで、人口の伸びが止まったら経済は停滞している。これから人口は減るので一段と厳しくなろう。

・米国はどうか。移民を入れて、人口は増えており、これから1億人も増えていくので、米国経済は強い。EUは覇権の争いをしており、英国は人口が増えて経済がよくなっている。EUはドイツ中心なので、そこから出ることにした、とみている。

・英国は資源に恵まれていないので、賢く生きてきた。アトキンソン氏が学んだオックスフォード大学では、とにかく理屈を追求する。本質を極める訓練を受ける。そのために、計算機をたたいてデータをみる。それに比べて日本は根拠もない議論を上から下まで情緒的にやっている。そんな議論はやめた方がよい、と強調した。

・ダイバーシティ(多様性)は確かにカギである。米国の企業は無国籍の会社にして、世界に出ている。1つの民族で世界に勝てるはずがない。勝負は、会社や組織の仕組みを移民にも開放して、世界の72億人から優秀な人材を集められるかにかかっている。

・生産性とは、一人当たり付加価値であるから、本質は付加価値を上げることである。効率性に着目して、無駄を減らしコストを下げる、というのは別の話である。コスト削減ではなく、付加価値の向上が本質である。この生産性の向上こそマネジメントの戦略に依存する。ここが弱いと、アトキンソン氏は強調した。

・アナリストはどうあるべきか。アトキンソン氏は、アナリストにもはや出番はないという。かつては、会社内部の情報を利用して付加価値をつけることができた。今やできない。決算分析に何ら価値はない。残されているのは、本質的な価値の分析である。これを見える化できるアナリストは存在できるが、多くのアナリストには難しいという見方である。

・國分社長は、アナリスト、投資家、マスコミには常に誠実に対応するが、彼らを意識した経営はやらないと明言した。魚谷社長は、アナリストはリスクの深掘りにばかりこだわる傾向がある。もっと大きな議論をしたいという。海外の投資家に会うと、人生哲学、経営理念、戦略のあり方に議論が及んで楽しい。こうした議論を踏まえて、財務数字に下ろしてほしいと述べた。

・ここから得られる教訓は、1)アナリストは、常識としがらみの議論ではなく、本質を見抜くように、根拠のあるデータ分析を行え、2)財務的な数字の前に、企業の本質的価値の見える化に力を入れよ、3)そのために、経営者としっかり対話できる実力を養え、ということになろう。アナリスト不要論を乗り越え、本物のアナリストを目指してほしい。

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