知財(IP)を評価する~アナリストの知りたいこと

2017/10/10 <>

・政府は毎年、知的財産推進計画を策定している。2017年の計画では、‛ビジネスの実態やニーズを反映した知財価値評価の実現’が盛り込まれた。知的財産の権利化とともに、知財紛争処理システムの機能強化も求められている。証拠収集、裁判外紛争解決手段(ADR)、国際仲裁などが引き続き重要である。

・では、知的財産(知財・IP)の適正な評価はどのように行えばよいのだろうか。特許(パネント)侵害した時の損害賠償額はいくらが妥当か、という直接的な利害の前に、知財の価値評価にもっと迫る必要がある。

・投資家・アナリストからみて、知財の適正な価値評価に向けて、何が大事であるかを考えてみたい。まず大枠としての企業価値評価のフレームワークでは、3つの視点が重視される。

・1)市場性(市場の広さ、市場の発展性、競合の度合い、新市場の創造)、2)革新性(ビジネスモデルの独自性、イノベーションの先進性、経営資源と組織能力の活用、新たなコンセプトクリエーション)、3)社会性(商品・サービスの不可欠な存在、ESGの活動、ステークホルダーの満足、社会的課題の解決)という3点である。

・次に重要な点は、価値創造の仕組みである。企業が価値創造を実践する仕組みがビジネスモデル(BM)であり、そのBMを構成する6つのキャピタル(資本)の1つが知財(IP)である。

・6つのキャピタルとは、①人的知識(ヒューマンキャピタルの中に内在し、生み出されるナレッジ)、②運営組織(BMを運営する組織能力)、③人工知的(ヒューマンキャピタルが創り出し、客体化された知財や製造物)、④社会公共(インフラとしての社会公共資本)、⑤自然環境(BMの持続性に欠くことのできない自然や環境資本)、⑥金融財務(金融資本市場における財務)である。

・知財を狭く考えれば、特許など法的に守られる知的権利であるが、広く捉えればBMを支える外部化された知識やそれを具現化させたシステムといえる。特許とは違ったカルチャーのようなものから、外部に顕在化させたくない秘密のノウハウのようなものまで幅広い。

・知財はBMを支える重要なキャピタルであるが、それにはいくつかの発展プロセスがある。1)発明・発見のような知財は、それがすぐビジネスに役立つとはいえない。2)知財を活用してBMを作り上げるには相当の戦略が求められる。3)今のBMが何らかの価値を創り出しているとすれば、そこには必ず知財が貢献している。

・さらに、4)次のBMへレベルアップするには、新しい知財を創り出して活用する必要がある。5)この知財を創り出すR&Dはどんな業種の企業においても必須である。

・そこで、アナリストとして、会社に問いたい。第1に、あなたの会社の知財の特色は何ですか。第2に、あなたの会社の知財の強みは何ですか。第3に、新たな知財の創出に向けて、どのような中長期戦略を打っていますか。

・そして、第4に、知財のIR(統合報告としての投資家向け説明)はどのとうに展開していますか。まさに会社としてIPによる価値創造をどのように実践し、それをいかに評価しているかを知りたいのである。

・アナリストとしては、知財の評価を5つの軸で行う。①知財のマネジメント:会社として知財をどのようにマネジメントしているか。②知財のイノベーション:知財を活かしていかに成長力を高めていくか。③知財のリスクマネジメント:知財を業績に結びつけると同時に、ネガティブなリスクが顕在化しないように手を打っているか。

・④知財を支えるESG:環境、社会に貢献する知財となっているか。そのためのガバナンスは十分か。そして、⑤知財のコネクティビティ:知財が独自の価値創造モデルにきちんと結びついているか、という点を吟味していく。

・その中で特に注目したい点は、1)イノベーター(発案者)は誰か。2)それを支える組織能力は十分か。3)ビジネスに育てていく戦略は確固たるものか。4)その知財をどう守るか。オープンにするのかしないのか。紛争になったらどう戦いどう収めるか。5)ビジネスへの貢献度をどのように計量化するか。定性評価をいかに定量化し、財務的にはどのような収益性を見込んでいくか。

・その上で株価へのインパクトを評価したいが、知財の発展ステージによって評価の実態は異なってくる。

・①発明発見の時期(R&DのRの局面)、②実用化のための改良の時期(R&DのDの局面)、③商品化・サービス化の時期(立ち上げ期)、④成長前期の時期(設備投資、販売投資、人材投資)、⑤成長後期の時期(収穫期)、⑥次のイノベーションへの準備時期(イノベーションの連鎖に結びつくか)、⑦衰退・撤退の時期(過剰資産をどう縮小整理するか)など、局面によって株価は常に過大にあるいは過小に反応しがちである。

・財務的な実績がみえ、予測の確度が上がってくると、マーケットではその知財の効果が次第に織り込み済みとなり、落ち着いてくる。

・投資家としては、常に先読みをしたい。会社サイドとしては、過剰反応を避けるようなIRに努めたいと考える。しかし、実態を伝えて、知財という無形資産を理解してもらうとしても、なかなか思うようにはいかない。

・アナリストによって解釈が異なり、楽観/悲観/無視など、さまざまな態度が表われよう。こうしたマーケットの評価を踏まえた上で、それに振り回されることなく、知財を活かしたBMのブラッシュアップに取り組んでほしい。

 

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