ESGの先を目指す~次はイノベーション

2017/09/11 <>

・CSR(企業の社会的責任)とESG(環境・社会・企業統治)は何が違うのか。企業の倫理的な側面や社会貢献を重視するか、企業のサステナビリティ(持続性)を支える3つの側面をとりわけ重視して、企業価値の向上を目指すのか、とういう点に差がある。

・ESGが中長期的な企業価値創造に結びつくのであれば、ESG投資は意味を持ってくる。中長期の投資リターンの向上、あるいは投資リスクの低減が見込めるからである。

・企業に対するESGの評価を、どのように展開するのか。投資対象をポジティブにスクリーニングするか、ネガティブにスクリーニングするかで、スタンスが異なってくる。環境汚染、虐待労働、軍需優先、健康被害などに着目して、それに関わる企業を外していくのがネガティブスクリーニングである。

・逆に、生態系・エネルギー改革、社員の働き方やダイバーシティ(多様性)改革、コーポレートガバナンス改革など、ESGを通した企業のサステナビリティに関して、プラスに加点して評価するのがポジティブスクリーニングである。

・GPIFが採用した3つのESG指数(FTSE Blossom、MSCIジャパンESG、MSCI日本株女性活躍)は、いずれもポジティブスクリーンをベースにしている。

・ESGを軸にした一次元評価だけで、投資のパフォーマンスが出るのであろうか。ESGの評価が高い企業は、ROEが高く、株価のボラティリティは低いと本当にいえるのだろうか。その因果関係を株価と単純に結びつけるわけにはいかない。ESGは重要であるが、企業がESGに特化すれば、持続的な成長が保証されるとはいえない。

・企業価値には経済的価値と社会的価値があり、企業価値とは直接結びつかない社会的価値もある。また、目先の経済的価値が中長期の企業価値と相反することもよくある。

・一方で、ESG投資がESGインデックス中心に投資されるならば、このインデックスに選ばれることが、市場価値を高めることに結びつく。ESGインデックスに入ることを目的に、自社のESG活動を磨くという企業も増えてこよう。目標を明確にして、ESGに力を入れることは望ましいが、それで企業価値の向上に結び付くかは十分検討してほしい。

・企業の価値創造をESGも含めて、もっと広く深く捉えようとする議論も進んでいる。伊藤レポート第2弾(「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス」)は、企業と投資家の対話を財務情報と非財務情報に分けて、議論するのではなく、長期投資(ESG無形資産投資)の観点から統合的に捉えようとしている。

・企業サイドにおいて、1)社会的課題にソリューションを提供する、2)社会的価値にフォーカスして、社員が自立的に動かないと本物の企業価値創造はできない、3)ESGを軸にグローバル経営を進化させる、という気運が高まっている。

・投資家サイドでも、1)パッシブだけでなく、アクティブ運用においてもESGファクタ―を評価に取り入れる、2)グローバルにESG評価を行い、企業にレーティングをつけて、一定水準以上を投資対象のガバレッジとする、3)アナリストガバレッジの全銘柄にESGレーティングを付与して、既存の投資プロセスに組み込んでいく、というケースが増えている。

・ここで2つの課題があろう。1つは、投資判断におけるESG評価の重みをどのようにおくか。もう1つは、ESG優先の投資判断が何らかの偏りを生まないか。いずれも今の段階で計量的に分析できていないので、実証的な論評は難しい。

・ただし、経験則に基づき、次のような方策を検討すべきと考えている。企業レーティングを、①経営力(マネジメント能力)、②成長力(イノベーション力)、③持続力(ESG)、④業績のリスクマネジメント、という4つの軸に沿って3段階評価するというのが、これまで筆者がとってきた方式である。これはビジネスモデル(BM)の頑健さ(ロバストネス)を4つの視点でみたものである。

・ところが、企業価値創造に優れた企業においても、このBMの構築がまだ弱い。統合報告(Integrated Reporting)においても、既存のBM1を次のBM2にトランスフォームしていく時、1)BM2 の描き方と、2)その実現のための戦略、が今1つである場合が多い。

・そこで、企業評価のレーティング軸として、新しいBM作りの戦略のコネクティビティ(結び付き)の評価を第5の軸として導入したい。コネクティビティが弱いと戦略の実行性が不十分となり、新しいビジネスモデルが実現できないからである。

・企業評価に、⑤新しいBMと戦略のコネクティビリティ、を入れてみると、目標水準が一段と上がって、上位、中位の差がよりはっきり出てくる。

・5軸を3段階で評価するので、企業レーティングは5点(1+1+1+1+1点)から15点(3+3+3+3+3点)までばらつく。15~13点をA、12~8点をB、7~5点をCとする。

・そうすると4軸(4~12点)ではAクラスであった企業が、Bクラスになってくるケースが出てくる。大企業でも中堅企業でも、Aで変わらない企業もある。ここで、何が差になってくるかというと、ESGの軸ではなく、イノベーション(成長力)の軸である。イノベーションを企業価値創造の新しいBMに結びつけるコネクティビティに、差が出てくるように感じられる。

・改めて企業のイノベーションの強さや、新しいBMと4つの軸のコネクティビティに注目したい。もしそこが十分できているなら、統合報告でより一層開示してほしい。そうでないならば、新しいBMの構築に向けた戦略をコネクティビティの観点から練ってほしい。例えば、エムスリーや東祥はAクラスとみているが、今一歩の企業も多いといえよう。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。