衰退の法則に学ぶ~外からどう見抜くか

2017/08/28 <>

・企業の衰退に法則はあるのか。通常、我々は投資家として、いい会社かどうかを見抜きたい。そして、長く保有する株主になりたいと思う。しかし、そうでない投資家も大勢いる。よい会社に投資したいのではない。割安な会社の株を買って、割高な会社は売って、儲けたいという。当然の投資行動である。

・衰退した会社かどうかが重要ではない。衰退しそうな会社を人より早く知って、先に売って儲けたい。そういう会社がM&Aされて再生するなら、そのタイミングで乗りたいということかもしれない。

・「衰退の法則~日本企業を蝕むサイレントキラーの正体」を著した小城(おぎ)武彦氏の話を聴いた。「破綻する日本企業には組織内に共通するメカニズムが駆動している。」 それを解明しようとした。

・カネボウやダイエーはなぜ潰れたのか。一般論として、①経営者の力量不足、②経営戦略の誤り、③組織風土が内向きで危機感が鈍い、という共通項がありそうだが、小城氏はそれを徹底的に追究した。

・破綻した企業は、①社内での対立を極力回避する、②役職や入社年次といった社内秩序を強く重んじる傾向がある。③経営陣が意思決定する際に、事前に話をまとめておき、オフィシャルな会議では予定調和的にものごとが決まっていく。④ミドルは社内調整に力を入れ、妥協色の強い内容の方針が決まっていく。そして、社内調整力のあるミドルが出世していく。

・逆に優良企業を調べてみると、①現場・現実を重視し、事実に基づく議論を尊重する規範があり、経営の意思決定プロセスが予定調和的でない。②オフィシャルな会議でもしっかり議論がなされて、上位者への過度な同調はみられない。③ミドルも議論を深める事前調整を行っている。そして、④正論の展開と実行力、そして人間性が昇格の条件となっている。

・オーナー系企業はどうか。破綻タイプのオーナー系企業では、①意思決定の権限はオーナーへ一極集中しており、②ミドルはオーナーの考えを錦の御旗に、事後調整を行うだけで、事前調整はほとんどない。③昇進も、オーナーへの忠実さと相性、実務の執行能力で決まる。

・では、優良なオーナー系企業は何が違うか。①意思決定は同じく一極集中であるが、オーナーの資質が経営環境に適して実行できており、実務のPDCAがきちんと回っている。②同族として企業が発展を持続するには、オーナーの継承が何よりも重要であるが、その上で自らの意思決定の領域を限定して、ボトムアップを活用している。③番頭や腹心の活用がカギである、ともいう。

・このような論点について、小城氏は実証分析を行い、55歳の時に東大で経済学博士を取得した。経産省の役人から企業の再生に関わり、カネボウや丸善の社長として再生を実践した後、それまでの仮説を検証したのである。

・投資家としては、これらの知見をどう活用していくか。「企業を見る目を養う」という筆者の観点からは、3つのことを重視したい。1つは、企業内部の仕組みや実態は外からなかなか分からないが、それでも企業風土が表われてくる場面は多いので、ここに注目する。

・実際、投資家説明会で、社長が一人ですべてを話すのではなく、担当役員や部下に詳しい内容を説明させる。その時、その人たちが単なる公式見解だけでなく、自分の思いやストリーを持って話すことがある。

・それは聞いているとすぐにピンとくる。とりわけ、社長はこう言っているが、こういう見方もある、というような意見が言える会社は、間違いなく普段から風通しの良い会社である。

・2つ目が、誰が役員に昇進したか、という人事に関して、どういう風に話すかである。その内容に接すると、昇進がフェアで、しかも会社の企業価値を高める人材かどうかが分かる場合がある。本人が投資家の前で、担当の事業について語る時には、その内容を人物像も含めて判断するのは当然である。

・ポイントは、なぜ彼がその任に昇進したかを別の人に聞いてみることである。会社の然るべき役職の人々にとって、他人の昇進はあまり愉快ではないが、それでも、なぜ彼が出世したのかをしっかり語れる会社はいい会社である。人事の公正さを知る上で、その反応をみることは大いなるヒントになる。

・3つ目は、オーナー型会社の場合は、本人の資質が会社の行く末をほとんど決めてしまうが、それをいかに組織能力にトランスフォームしていくかが問われる。そのためには、オーナーに後継者はどうするのかと単刀直入に聞くことである。

・考えていない社長ほど、不愉快な顔をする。考えている社長は持論を語る。但し、この質問をする時には、君はどう思うかと必ず聞かれる覚悟をして、話す内容を練っておくことである。自分の考えがなければ、よい答えを聞き出すことなどできない。

・企業は経営者がすべてである。しかし、経営者も一人では何事もできない。社員が最も大事である。その社員が、会社を面白くするように活動しているか。それができるように組織能力の向上を図っているか。まさに、最大のテーマであるガバナンスの効く経営システムの実践が問われている。

・その上で、顧客、取引先、地域社会、株主との対話が重要となる。投資家は、①経営力、②成長力、③業績のリスクマネジメント力、④ESGの持続力を統合的にみて、企業の投資価値を定量的かつ定性的に判断する。

・最近でいえば、東芝は何でこんな会社になってしまったのか。衰退の法則を頭に入れながら、いい会社に投資したいものである。

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