オムロンの中期計画とアナリストの反応
・4月27日に、オムロンは2016年度の決算発表と新中期計画の説明会を行った。28日の株価は4665円、前日の5060円から-7.8%の下落となった。その後の株価も戻りも鈍い。これをどう見るか。
・2017年3月期の業績は売上高7942億円(前年度比-4.7%)、営業利益675億円(同+8.5%)、税前利益654億円(同-0.3%)、純利益459億円(同-2.8%)であった。
・この期で終わった3カ年計画では、1)IA(制御機器)の最強化、2)中国・アジアでの飛躍的成長のための基盤構築、3)環境に続く、産業、社会生活での新規事業の創出によって、“自走的”な成長構造の確立を目指した。
・会社側の評価としては、①IA事業の成長回帰、②稼ぐ力の着実な向上、③収益を伴った成長を実現する事業構造への転換について、成果が上がったとしている。
・2014年4月に発表した2017年3月期の定量目標は、売上高9000億円以上、売上高粗利率40%以上、営業利益率10%以上、ROIC 13%前後、ROE 13%前後、EPS 290円前後というものであった。
・結果は、売上高7942億円、粗利率39.3%(3年前の2014年3月期38.5%)、営業利益率8.5%(同8.8%)、ROIC 10.3%(同11.3%)、ROE 10.1%(同11.6%)、EPS 215円(同209円)という内容であった。定量目標には届かなかった。業績が最もよかった1年目の2015年3月期にROIC 13.4%、ROE 13.5%と目標をクリアした局面もあった。
・今2018年3月期の会社計画は、売上高8100億円(前年度比+2.0%)、営業利益680億円(同+0.6%)、税前利益655億円(同+0.0%)、純利益485億円(同+5.5%)と、ほぼ横這い圏に留まる。
・今期から始まる新中期計画「VG2.0」では、1)注力ドメインをFA、ヘルスケア、モビリティ、エネルギーマネジメントに再設定し、事業を最強化する、2)FAにおけるi-Automation、ヘルスケアにおける循環器(血圧計)、呼吸器(ネブライザ)、ペインマネジメント(疼痛管理)などにおけるビジネスモデルを進化させる、3)AIを活用したディープセンシングなどの技術を磨くために、東京(先進AI技術)や米国西海岸(AIアルゴリズム開発)に新たな拠点を設け、コア技術を強化する。これらの3つの戦略を自社だけではなく、4)パートナーと協創することで、質量兼備の地球価値創造企業を目指す。
・4年後となる2021年3月期の定量目標は、売上高1兆円(2017年3月期7942億円)、粗利益率41%以上(同39.3%)、営業利益1000億円(同675億円)、営業利益率10%(同8.5%)、ROIC 10%以上(同10.3%)、ROE 10%以上(同10.1%)、EPS 300円以上(同215円)である。注力ドメインの制御機器とヘルスケアで売上高年率10%成長を図り、全体の粗利率の向上を通して、営業利益でも年率10%の成長を確保する。
・そのために、今後4年間で成長投資(M&Aとアライアンス)1000~2000億円(過去3年では447億円)、R&D費2700億円(同1514億円)、設備投資1600億円(同1007億円)を予定する。前半2年で先行投資しつつ後半2年で成果を上げていくというパターンである。このR&Dに関する先行費用増もあって、今2018年3月期の営業利益は横這いに留まるという計画を組んでいる。
・こうした先行投資がうまく成果に結びつくのだろうか。そこを分析するのがアナリストである。山田社長はトップ分野を一段と強化し、新分野を開拓すると熱く語る。投資家はどう受け止めるのだろうか。1)前期の業績はパッとしなかった、2)今期の会社計画では利益はほとんど伸びず期待はずれである、3)中期計画も4年先ではどうなるかわからない、4)アナリストは目先期待外れだったので、株価にはネガティブというコメントを出している、5)とりあえず売っておいて、その後の業績がよくなってきたらその時に買おう、という流れかもしれない。
・長期投資家にはどうみえるだろうか。1)経営者の実行力は一段と充実している。2)成長分野へのイノベーションは競争優位を高めることができる、3)コーポレートガバナンスは効いており、働き方、環境への取り組みも十分である、4)業績のリスクマネジメントではもう一段グリップを強化してほしいが、収益力の向上と安定度は高まっている、と判断できる。先行投資の内容と進捗をさらに詳しくフォローしていく必要があろう。
・筆者の企業評価はAである。①経営力、②成長力、③持続力、④リスクマネジメントの4軸から、各3段階(3点、2点、1点)で評価して、A(12~10点)、B(9~7点)、C(6~4点)という3クラスで、オムロンは10点に相当するというのが筆者の判断である。
・4月27日の説明会の後のセルサイドアナリストの反応は、1)説明が不十分でネガティブサプライズ、2)収益力の強化策は評価できるが、株価面では材料不足、3)増益で待っていたが、横這い予想を出してきたので、もう少し様子をみたい、4)中長期には期待できるが、短期的な費用増が嫌気される、5)投資効率がはっきりせずもの足らない、6)先行投資で低成長局面に入っている、7)会社計画は保守的でノーサプライズなど、さまざまである。
・おしなべて、短期のモメンタムが株価にマイナスになるという反応で、中長期の会社計画は十分腹落ちしないので、慎重にみておこうというスタンスであるのだろう。
・中長期の企業評価は難しい。株価の上げ下げにフォーカスすると、どうしても短期の業績に目がいき、それが市場コンセンサスに比べて上か下で一喜一憂しがちである。そんなセンチメントに基づく株価反応を当てることが本筋ではない。アナリストは、会社の中長期計画についてもっと深い分析を行うが必要であろう。
・会社サイドとしては、次の統合報告書ができた段階で、内外の機関投資家、個人投資家に統合報告説明会を開いてほしい。中長期的な理解を求めて、対話の工夫を継続していく必要があろう。