景気のよさをどうみるか~平時と有事を視野へ

2017/05/29 <>

・3月期の決算発表が一巡した。決算短信で最も大切なのは、業績の実績と会社側予想である。一方、最も無味乾燥なのが、コメント欄(経営成績の概況)の冒頭にある景気の現況についてのマクロ経済の内容である。説明の枕詞として定型文のように入れているが、ほとんど独自性はない。

・どうすればよいのか。1つは、すべてとってしまうことである。もう1つは、わが社の業績に本当にクリティカルな影響を与えるマクロ経済の動きについて、自社のビジネスに結びつけて語ることである。まさにコネクティビティ(つながり)が問われる。

・今2018年3月期の業績を見る時に、マクロ経済はどのように影響してくるのか。その前提として、主要国のGDPをどうみるか、為替はいくらを前提にするか、原油価格はどの程度とするかなど、知りたい要素は多々ある。

・企業サイドはマイルドなコンセンサスをイメージしながら、保守的な前提を是認する形で見通しを立てる。後は、為替が1円動いたらいくらの影響が出るか、といったシミュレーションに基づくセンシティビティ(感度分析)を説明に用いる。

・街に出て景気のよしあしを議論すると、人々の印象は何をみているかによってかなり異なる。中小企業の店舗では、売上げが伸びていないので、ずっと不況が続いているという。それは自分の店だけなのか、まわりもそうなのか。

・サラリーパーソン(勤労者)は自分の給料やボーナスが増えるか減るかがとても気になる。グローバルに活動している企業にとっては、日本よりも海外の売上比率が高いことも多いので、そうなると欧米やアジア新興国の政治経済の方がはるかに影響してくる。

・日本の株式市場から景気をみる場合にも注意を要しよう。株価=利益×成長性であるから、まずは利益がどのくらい増えるか減るかが第一の関心事となる。次のその利益が中長期的にどのくらい伸びるかに期待が集まるので、成長戦略の行方を見極めたいとなる。

・ところが、この成長戦略の見極めがなかなか難しい。そうすると、足元の業績が今見込んでいるものより、よくなるのか悪くなるのか、といった短期的なところにばかり目がいってしまう。足元が分からずして将来など分かるはずもないとして、この1年の業績を最も重視する投資家は多い。

・日本のGDPをみると製造業のウエイトは2割にすぎないが、株式市場では5割を占める。しかも、輸出から現地生産にシフトしたといっても、円/ドルレートや円/ユーロレートの変動がかなり影響する。つまり、円高になると業績は落ち込み、円安になると利益が増える構図である。

・米国の金融政策によって、ドルが動くと、それにつれて日本の株価も変動する。円高は株安、円安は株高というパターンで連動する。米国の利上げが緩やかに今年2回はありうる一方で、日本では現在の金融緩和政策が続くとみられる。日米金利差が開くことへの期待を織りこむ形で、円安が進行するというのが1つの有力な見方である。そうなれば、株価は日経平均で2万円台に戻すことになろう。

・一方で、北朝鮮のリスクはどのように考えておけばよいか。韓国の株式市場は新高値圏にあり、今のところ何の心配もしていないようだ。文在(ムンジェ)寅(イン)が選出されて動き出した。米国の株式市場も堅調である。もし米国が直接関わる有事であれば、その不安が高まるにつれ、株安、原油高、ドル安というパターンになろう。

・野村證券の木下チーフエコノミストの資料によると、91年のイラクのクエート侵攻、2001年の対テロアフガン空爆、2003年のイラク戦争の場合、一旦有事が始まってしまうと、その収束を織り込むという動きがはっきり出た。つまり戦争は米国優位が明らかなので、短期で終わるという見方であった。

・北朝鮮の場合はどうであろうか。朝鮮半島は、第2次世界大戦後の東西分裂がまだ続いている。ソ連邦が崩れ、東西ドイツが統合した時は、その過程で大きな戦争が起きたわけではない。しかし、民族紛争は次々と起きている。では、北朝鮮が内部崩壊するだろうか。

・現状で、米国サイドからイラク戦争のようにしかけるのはかなり難しい。北朝鮮がぎりぎり追いつめられて、彼らの方から何らかの紛争をしかけ、それを防衛するという形で一気に叩くということになるのだろうか。韓国の文新大統領は緊張緩和に効果を上げるのだろうか。

・もし、本格的な戦争に向かうとすれば、中国がカギを握る。かつての日米開戦のように数年も続くのであろうか。長引くと同一民族での戦闘は激しいものとなり、米軍基地のある日本も相当巻き込まれる。日本を守るための戦いも必要になる。中国がいる限り、韓国寄りの統合というわけにはいかない。

・いずれにしても、紛争がスタートする前にかなり緊張と不安が高まり、勃発後もマーケットは混乱しよう。この時はドル安、円安という展開になろう。当然、原油高、株安である。日本に人的被害が出る可能性もあり、防衛のあり方を抜本的に見直すことが急務となろう。

・こうしたリスクは当面杞憂であり、平時の枠組みが維持されるのであれば、2020年のオリンピック前の2019年まで景況は安定的に拡大しよう。その頃まで米国景気もリード役となろう。しかし、トランプ政権の政策のツケが剥げてくる可能性があり、2020年の大統領選挙に向けて、対外的な軋轢が増す展開も想定される。

・一旦有事になるとマーケットはリスクオフになる。日本から遠いシリアや東欧、アフリカであれば、円高という動きであろうが、日本に近いアジアや日本が直接関わる有事となれば、事態は一変する。そのリスクが従来に比べて高まっている。誰もが分かっているが、その準備はこれからである。

・2017~2018年度の平時の景況は順当なものであり、企業の自助努力が評価される相場展開が予想される。一方で、何らかの有事が発生することも想定しておくべきであろう。企業においては、BCP(非常時の事業継続計画)を見直し、緊急時の撤退プランも実践ベースで立てておく必要がある。

・投資家としては、有事も視野に入れてポートフォリオの見直しを機動的に検討する必要があろう。冷静にみつめれば、有事でマーケットが混乱した時にチャンスあり、という余裕も持っておきたい。

 

 

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。