米中にどう立ち向かうか~これからの経営投資環境
・昨年11月に白馬会議が催された。毎年開催されており9回目であったが、初めて参加してみた。そこでの議論を踏まえ、参考にすべき視点について、トランプ大統領就任を機に、いくつか取り上げてみたい。長野県の白馬は若かりし頃、スキーによく出かけたことがあったが、ここの温泉宿で世界の経済や政治について議論しようという会合が持たれた。
・まず、ものづくりの分業という点でアジアの連携をみると、家電では日本の競争力が大きく低下した。自動車の競争力は強くがんばっているが、韓国や中国が台頭している。機械は日本が圧倒的優位に立っている。高精度が要求される電子部品や機械部品では日本企業の競争力は極めて高く、差別化は当分続くものと予想される。しかし、中国の追い上げが始まっていると見ておいたほうがよい。
・その中国と、どのように付き合っていくのか。経済規模ではすでに世界2位であるが、一人当たりGDPではまだ中進国である。その中で広東、上海、北京をみれば一人当たりGDPは1.5万ドルレベルに近づいており、この地域の人口は3億人を有する。これから産業の高度化、金融力の向上、経営のグローバル化が押し寄せてくる。政治力や軍事力の動きとともに、中国がアジアの中心軸になってくるのは不可避であり、御しがたい存在感で迫ってこよう。
・中国市場を避けているだけでは機会を逃す。中国ビジネスにはリスクがつきものであるが、内需拡大の中で、中国企業と連携を組みながら一定のポジションを築くという戦略はますます重要になろう。経済的な結びつきが政治、軍事の暴走に対して歯止めになるとはいえないが、リスク分散を図りながらも、中国経済のインナーサークルで活動することは相互にメリットがあろう。
・米国のトランプ大統領は米国ファーストを掲げ、世界の警察官からは手を引くと公言している。安全保障のパワーバランスが変化する可能性があり、その隙をついて紛争が起きてくる。既成事実作りの陣取り合戦が、あちこちで持ち上がりそうである。その中でも、ISテロ国家は何としても抑え込む必要がある。
・一旦バランスが崩れた後、次の新たなパワーバランスの均衡状態に移行するまでに、力で押す国と押される国が出てくる。これらの紛争は一種の戦争状態といえるもので、ちょっとしたスキが取り返しのるかない不均衡をもたらすことにもなりかねない。
・中国は海洋を取りにくる。北朝鮮は核ミサイルで威嚇し、譲歩を引き出そうとする。いずれにしても日本は不利である。新たな外交力と防衛力が求められ、そのためにも経済力を高める必要がある。
・そういう対応を今の国内世論は認めず、許さないであろう。しかし、反米、反中、反鮮では、なにも解決しない。望ましいアジアのパワーバランスに向けて、法による秩序を主張しつつ、それを実効させる外交力の向上と国力の維持に腐心することが必須である。
・トランプ大統領のプラグマティズムは、交渉を損得で決めるという方式である。交渉に当たって、手の内は多い方がよい。次に、手の内は見せずに吹っかけて有利に導く。こういうやり方をいかにもとりそうである。
・世界の警察官をやめるという観点では、大国ながら行動様式は途上国型とみた方がよい。米国の人口は、2050年に向けて1億人も増える。自己主張はしても、理念を踏まえてものごとを考えないとすれば、わがままなリーダーにとどまり、好き嫌いを優先しそうである。どううまく付き合うか。それとも、立派なリーダーに立ち居振る舞いを変えてくるのだろうか。
・一方、中国は国家資本主義をどう乗り越えるのか。民意を反映する仕組みを何らかの形で入れられるのか。まず無理であろう。一党独裁による実質的な言論統制の中で、次の展開は相当に難しい。
・米国の大学進学率は75%である。大学を出ていない人の先行きは期待が持てず、大学を出ても半分は高卒の仕事しかない。その仕事そのものがIT革命の中でなくなるかもしれない。格差拡大に不満を持った人々が白人層を中心に変化を求めて、大富豪トランプに投票した。
・トランプが格差縮小に結びつくような将来の期待を非エリート層に提供できなければ、トランプ熱は早晩冷めていく。その時には人気取りの外交政策が、理不尽な内容で次々と出されるかもしれない。
・日本はどう対応するのか。安倍首相のwin-win外交が問われる。自国優先では、米中どちらにも受け入れられない。失われた20年で課題先進国になった日本は、成長力を取り戻せるのか。高齢化の進展で、成長力は取り戻せないというのが通常の見方である。だが、そんなことはない。
・ドイツを見ればよい。課題に手を打つ方策はある。ポイントはヒューマンキャピタルへの先行投資とその活用で、人的資産(ヒューマンアセット)の質と量を高めることである。一世代替わる30年後ではなく、何とか10年で新しいフレキシブルな社会に変えたいものである。そのためには、私たちが働く企業という組織こそ変革の先頭を走るべきであろう。